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ワリコミ! 幻奏喫茶アンシャンテ カヌス・エスパーダ誕生日SS

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4月3日。
温かな春を迎えた、
喫茶アンシャンテ――。


* * *


――ではなく。
世界樹の中枢、妖精界メディオでの
雑談が【それ】のきっかけとなった。

ティターニア
「......なに?
 明日がカヌスの【たんじょうび】とな?」

狩也
「え......
 ティターニアたち、知らなかったの」

琴音は狩也と共に、
ティターニアやヴェンニーアとの
恒例となりつつある茶会を楽しんでいた。

ヴェンニーア
「そもそも【たんじょうび】とは、
 なにを意味するのです?」

狩也
「あ、なるほど。そこからね」

とりあえず狩也と共に、
わかりやすく【誕生日】の意味を、
二人に説明してみれば。

ヴェンニーア
「......要するに。
 一年に一度、その者の生誕を祝う日――ですか。
 そしてカヌスもまた、人間界で
 仮初の誕生日を決めている、と」

ティターニア
「......まったく、カヌスめ。
 そのような大事なことを、
 儂らにずっと黙っておったとは」

ヴェンニーア
「お言葉ですが、陛下。
 あの首なし騎士の性格上、
 【祝ってくれ】と言わんばかりに
 自己申告するなど、ありえないことかと」

ティターニア
「むう......それもそうじゃな。
 ともあれ、話を聞けて僥倖。
 やはり当日は、
 アンシャンテで祝いの宴を開くのかえ?」

狩也
「うん。午前中から始める予定だから、
 カヌス本人にも、
 前日から泊まるようにもう頼んである」

狩也の言葉にティターニアは頷き、
そしてしばし悩むような素振りのあと。

ティターニア
「琴音。その......
 無茶を承知で頼みがあるのじゃが。
 ひとまず、話だけでも聞いてもらえぬか?」

真剣な顔で――そう、告げたのだった。

* * *

翌日。
いよいよ迎えた、4月4日。
カヌス・エスパーダの誕生日。

午前10時。

喫茶アンシャンテにおける、
彼を祝う誕生日パーティーは――

カヌス
「わ、我としたことが......!
 今日という日に寝坊してしまうとは......!!」

まだ開かれて、いなかった。

盛大に寝過ごし、
慌てて部屋から飛び出してくるカヌス。

きっと皆、
自分を待ちくたびれているに違いないと、
大きな足音を立てて一階に降りれば――。

カヌス
「皆、すまな――!!
 っと............こ、琴音?」

予想に反し、
階下には他の面子は見当たらず、
マスターたる彼女だけが――なぜか。
ゲートのある部屋の前に立っていた。

戸惑うカヌスへと、琴音は微笑み告げる。

――【お誕生日おめでとう、カヌス】

――【とっておきのパーティー会場を用意したよ】

* * * 

琴音の言葉の真意もわからず、
半ば強引に押されるままにゲートをくぐり......
当然その先に待っていたのは、故郷たる妖精界メディオ。

彼女と共に向かうのは、世界樹の中枢。
つまりは女王の間だった。

その場所へと、
足を踏み入れた瞬間。

常連一同 & 狩也
「「「「「誕生日おめでとう、カヌス!!」」」」」

カヌス
「............!?」

破裂音。
そして自分を囲うように舞う大量の紙吹雪。
数秒遅れて降り注ぐ、美しい花々の花弁。

驚きつつも、何事かと周囲を見渡せば――
メディオには存在しない人工的な飾りが、
女王の間のあちこちに取り付けられている。

更にテーブルの上には、
大量の料理やケーキが並べられていて......。

ミシェル
「――あっはっは。
 不意打ち大成功~!
 隙だらけだったね、騎士さま?」

イグニス
「ったく。
 来んのがおっせえんだよ、カヌス。
 このままメシが冷めちまうかと思ったぜ」

本来の姿に戻っている常連仲間。
そして凛堂や狩也までもが――
いつの間にか笑顔で、自分たちを囲っていた。

カヌス
「こ、これは......いったい......?」

ティターニア
「――ほんに、鈍いのぅ。
 そなたの誕生日ぱーてぃー以外の、
 何に見えるというのじゃ?」

カヌス
「......!」

奥から聞こえてきた声は間違いなく、
玉座に座る妖精女王のもの。
傍には当然ヴェンニーアの姿もある。

手招きをされ歩み寄れば、
ヴェンニーアが説明を始めた。

ヴェンニーア
「......実は昨日の茶会で、
 彼女からあなたの誕生日について、
 聞き及びまして」

ティターニア
「祝いの宴をどうにか、
 この場で行えないか――と。
 無理を承知で琴音に頼み込んだのじゃ」

凛堂
「要するに......
 急遽、パーティー会場を、
 メディオに変更したってことだね」

イル
「ふふ......ちなみに私は、
 カヌスが早朝の準備中に起きぬよう、
 昨夜のうちにこっそり催眠を施しておきました」

カヌス
「な、なるほど......!
 今日に限って寝坊してしまったのは、
 そういうことだったのか......さすがに肝が冷えたぞ」

しかしまさか、
とカヌスはティターニアの横にいる
ヴェンニーアへと向き直る。

カヌス
「......ヴェンニーア。
 お前まで協力しているとは......」

ヴェンニーア
「正直なところ。
 あなたの誕生日など心底どうでもいいのですが。
 ......他でもない陛下直々の願いですから、
 快く。喜んで、協力させてもらいましたよ」

カヌス
「......ふふ、そうか。それは手間をかけた」

ティターニア
「すまぬの、カヌス。
 この誕生日もまた、アンシャンテで過ごすほうが、
 そなたにとって心安らぐのはわかっていたのだが――」

ティターニア
「それでも、儂もまた琴音たちと同じく、
 そなたが生まれたことを――
 ここに存在してくれていることを、祝いたかったのじゃ」

ティターニアの言葉に、琴音も続く。

――【カヌスの誕生日をお祝いしたいっていう、
   彼女の気持ちが、よく分かったから。
   私も勝手に企画しちゃって......ごめんね】

カヌス
「......ティターニア、琴音......」

彼女たちの真摯な思いに、
カヌスは頭を振り応える。

カヌス
「いや、謝る必要などない」

カヌス
「唯一無二の故郷にて――
 アンシャンテの仲間と古き友たちに。
 我が生誕を祝ってもらえるなど......
 ほんの少し前までは、
 想像すらしていなかった」

カヌス
「......我にとってはこの上ない喜びだ」

カヌス
「素晴らしい宴、心から感謝する」

ティターニア
「......! そうか、そうか......!」

温かな色を首元に宿して言うカヌスに、
嬉しそうにティターニアは微笑んだ。

ヴェンニーアもまた、
心なしかいつもより優しく告げる。

ヴェンニーア
「............。
 一応、一般の妖精たちは払っておきましたので。
 せいぜい好きに羽根を伸ばしたら良いのでは?」

カヌスの出迎えと説明も、
一通り終わったところで。

料理が冷める前に食べようと、
各自テーブルに付き――。

カヌス・エスパーダの誕生日パーティーは、
賑やかに始まったのだった。

* * *

用意された豪華な料理を、
カヌスは積極的に口(?)にし。

琴音が焼いた特製の誕生日ケーキも、
皆で分けて食べ終えたあと――。

ミシェルのときと同様、
常連仲間が選別したプレゼントを、
カヌスにひとつひとつ贈っていく。

カヌス
「ガーデニング用品一式に、
 自室用の新たな花瓶。
 裏庭で使用できるフラワースタンド。
 筋トレ用の道具......」

カヌス
「――うむ。
 いずれも購入を検討していたものだ。
 それがこうして一斉に揃うとは......
 偶然とは、面白いものだな」

ミシェル
「あ、ホント?
 よかったー。
 買っちゃう前にプレゼント出来て」

凛堂
「はは......イルが
 100キロのダンベルを取り出したときは、
 思わず二度見しちゃったけどね......」

イル
「――おや。
 重さが不足していましたか?」

カヌス
「いや、そんなことはないぞ。
 重さ、握り心地......共に抜群だ。
 今からこれで身体を鍛えるのが楽しみだな」

イグニス
「プレゼントにしちゃゴツい気もするが......
 ま、本人が喜んでんならいいか」

カヌスが華やかなラッピングを施されたダンベルを、
張り切って上下させている姿を見て、
常連の皆から楽し気な声が上がる。

狩也
「――急な予定変更で
 ドタバタしちゃったけど......
 最終的には、上手くいって良かったね」

琴音も狩也も、クスクスと笑う。

ティターニアもまた、
賑やかな彼らの様子を、
少し離れた玉座から眺めて――。

ティターニア
「......ふふ。
 本当に楽しそうじゃ。
 無理を言ったかいがあったな」

ティターニア
「来年は儂も――
 カヌスへのプレゼントを用意せねば。
 のう、ヴェンニーア?」

ヴェンニーア
「......はあ。
 まあ、わざわざ嫌がる理由はありませんね。
 あの黒騎士とも、それなりに長い仲ですから」

同意を求めるように笑うティターニアに、
ヴェンニーアはそっけなくも頷いたのだった。

* * *

華やかなパーティーは、
あっという間に終わりを向かえる。

メディオが冬――もとい夜を迎え、
足元が滑りやすくなる前に......と。
琴音たちはアンシャンテへと戻った。

そんな中、カヌスは自室にて、
賑やかな宴の風景を胸のうちで、
もう一度振り返っていた。

ちなみにイグニスは
ベスティアに帰っているので、
思い出に浸ることを憚る必要もない。

カヌス
「――ふふ。
 ああも盛大に祝われてしまうと、
 なかなかこそばゆい」

きっと自分はあのとき、
緩みきった顔をしていたのだろう。
幸いにして、この体質故に
その【表情】を悟られることはないが。

カヌス
「......ああ。
 本当に今日は良き一日だった」

感慨深げに独り言を奏で、
休憩しようとベストを脱いだとき――
控えめなノックと、自らの名前を呼ぶ声。

カヌス
「琴音か。
 鍵はかかっていないので、
 そのまま入ってくれて構わぬ」

そうカヌスが許可を出せば、
琴音はそれでも遠慮がちに入室。

そして何故か後ろ手に、
窺うようにカヌスに近づいて来て......。

――【ねえ、カヌス】

カヌス
「どうした?」

――【どうか何も聞かないで、
   いつもの兜を被ってくれない?
   それから、ちょっと屈んで欲しいんだ】

............。

......兜? とは......。

外出時に使う、あの兜のことだろうか。

それを今、ここで? ......なぜに?

そんな疑問を抱いたものの。
どこか切実に頼む彼女を前に、
断る理由は見当たらず――。

カヌス
「......これで、よいのだろうか?」

カヌスは僅かに屈んだあと、
要望通り例の兜を被ってみせた。

すると。


――ふわり、と。


頭上に何かを乗せられた感触が、僅かに走る。

カヌス
「............?」

微笑む琴音の、瞳の中。
そこに映し出された自分の兜の上に、
乗っているのは――。

カヌス
「......花の、冠......?」

――【私からの誕生日プレゼント。
   まだ、渡してなかったでしょ?】

――【私はいつもカヌスに、
   綺麗な花をもらってばかりだから」

――【今回は私が、
   あなたになんらかの形で
   花を贈りたいって思ったの】

――【そう言ったらヴェンニーアが、
   花冠を作ったらどうか、って】

呆然とするカヌスが身を起こせば。
その頭上で、白く小さい愛らしい花が揺れる。

――【ティターニアに教えてもらいながら、
   イベリスの花で作ってみたんだ】

――【仕上げに彼女が力を加えてくれて......
   そのおかげで、しばらくは枯れないみたい」

経緯を説明し終わった琴音は、
カヌスに向かって笑顔で告げる。

――【改めて、誕生日おめでとう。
   これは......いつも私を助けてくれる
   大切な騎士様への、感謝を示す冠です】

微笑んだ琴音に対し、
カヌスの首元の炎が柔らかな桃色に揺れる。

カヌス
「まさかこんなにも愛らしい冠を、
 貴女から贈ってもらえるとは......」

カヌスは無骨な手で壊さぬよう、
慎重にその小さな花冠に触れる。

カヌス
「ああ......
 花弁に触れるだけで、
 貴女の想いが伝わってくる」

何よりも――。

カヌス
「敬愛する者から冠を賜るは、騎士の誉れ。
 ――その相手が貴女ならば、なおのこと」

その冠に相応しい騎士らしく。
カヌスは琴音へと近づき、
胸に手を当て、力強く告げた。

カヌス
「......ありがとう、琴音。
 この優しき想いで作られた
 花の冠に改めて誓おう」

カヌス
「我が生涯において、
 いついかなる時も――」

カヌス
「――このカヌス・エスパーダは。
 貴女と、貴女が大切に想う全てを、
 この剣にて護ってみせることを――」

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終わり

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