オトメイトスタッフブログ

祝! 猛獣使いと王子様10周年!

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どうも、実に数年ぶりのブログ登場となります、
デザインファクトリー、ディレクターの中村Dです。

いやはや、本当に久しぶりですね。
そろそろ死亡説とかも出始めてそうですが......、
バリバリのサブディレクターやっているあたりから、
モバイル系の仕事をメインに色々やっていたので、
みなさん気づかない間に自分の息のかかった
作品を
プレイしていた可能性はあります。

とまぁ、自分の話はこれくらいにして、それよりも――、

【猛獣使いと王子様】10周年ですよ、10周年!

今年前半はお祭りムードが厳しそうだったこともあり祝いそびれていたのですが......、
今回DF公式ツイッターでのハロイン企画が猛獣ネタになるということで、
それと併せてのサプライズ更新となりました!

そんなわけで、久しぶりの猛獣ブログをどうぞお楽しみください。

【猛獣ヒストリー】

せっかくの10周年なので定番ですが振り返ってみましょう。

まとめてて思いましたが、こうして見てみると、
思ったよりコンスタントに色々出してたんですね......。

2009
PS2【アルコバレーノ!】発売
猛獣チーム爆誕。

2010
PS2【猛獣使いと王子様】発売
記念すべきシリーズ第1作。
「どうせ動物出るなら、モフりたいじゃん?」
という全人類が必ず抱くであろう欲求を叶えるため、
フリーモフモフシステム(以下FMMS)をひっさげ登場。

2011
PS2【猛獣使いと王子様 ~Snow Bride~】発売
猛獣チーム念願のFD。
なお、2011年は伝説のゲーム機であるPS2の
ソフトが発売された最後の年であり、(1本例外アリ)
本作はオトメイト最後のPS2作品となりました。

CD【猛獣使いと王子様 ドラマCD ~最強の花婿大作戦~】発売

PSP【猛獣使いと王子様 Portable】発売
ティアナが動物になってしまう新エピソードを追加。

2012
PSP【猛獣使いと王子様 ~Snow Bride~ Portable】発売
各キャラとのデートイベントに加え、人気の高かった
ディルク&クルトのエピソード「Ex Side Story」を追加。
また、「猛獣になった王子様育成ミニゲーム」こと、
デイリーモフモフシステム(以下DMMS)も搭載されました。

CD【猛獣使いと王子様 ~Snow Bride~ ドラマCD ~思い出の花~】発売

小説【猛獣使いと王子様 金色の笛と緑の炎】発売

2014
CD【猛獣使いと王子様 ドラマCD ~パン屋☆パニック!~】発売

小説【猛獣使いと王子様 魔女と伝説の薔薇】発売

2015
CD【猛獣使いと王子様 ドラマCD ~猛獣劇場リターンズ~】発売

PSVita【猛獣使いと王子様 ~Flower & Snow~】発売
本編とFDが合体。さらにアラビアン風衣装で送る
新エピソード「Ex Another Story」も追加されました。
また、直前に発売されたドラマCD「猛獣劇場リターンズ」と
内容がリンクするという仕掛けも。

2016
iOS&Android【猛獣使いと王子様 ~Flower & Snow~ for iOS&Android】配信

PSVita【猛獣たちとお姫様】発売
【猛獣使いと王子様】と世界観を共有しつつも、登場キャラクターが一新された、通称「猛獣姫」。
中村Dは中村Pとなって監修に回り、キャラクターデザインと原画はmikoに代わって
【SNOW BAUND LAND】の紫あやが担当しました。

舞台【オトメライブ 猛獣使いと王子様】
まさかまさかの2.5次元化。
新宿村LIVEで全8公演が行われました。

2017
PSVita【猛獣たちとお姫様 ~in blossom~】発売
「猛獣姫」のFDで、猛獣シリーズではいろいろと重要な役回りだった
「竜」がついにキャラクターとして登場しました。

2019
Switch【猛獣使いと王子様 ~Flower & Snow~ for Nintendo Switch】発売
Vita版「Flower & Snow」の移殖作で、現最新作。
オールインワンなので、今から始める方にはこちらの1本がオススメです。


【スタッフコメント】

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キャラクターデザイン・原画 miko
『猛獣使いと王子様』10周年おめでとうございます!
ついに猛獣にもお祝いの順番が巡ってきましたね(笑)

ああしたい、こうしたい、と仲間と相談しながら
手探りで作り上げてきた作品なので思い入れも深い作品です。

個人的にはだいぶ昔のように感じているのですが
あれから10年......まだ10年ですかね?

当時感想をくださったファンの方も私たちも良きお年頃となりましたね(笑)
動物姿のキャラクターをみて可愛いと言ってくれた娘・息子さんも
成長されて大きくなっていることでしょう。
長年この作品を愛してくださり本当にありがとうございます。
ふとした時、今後も皆さんの活力となりますように!


シナリオライター 山崎浅利
みなさまこんにちは! ライターの山崎です。
まさかこんなふうにブログに再登場できるなんて、さらに10周年記念のSSまで書かせていただけるなんて、感無量です!

猛獣のシナリオは、移植やらFDやら舞台台本の依頼の度に読み返していたので、2年に一度くらいの頻度で眺めてはいたのですが、今回はさすがに時間が結構あいてしまっていて、シナリオフォルダを開くのも恐る恐るという感じだったのですが「あれ、面白いな」とか「10年も前なのに意外と文章下手じゃないな」とか自画自賛しながら楽しく読み返しました。

この10年を思い返すと、キャラソンだったり、オトメイトパーティだったり、舞台だったり、様々なグッズ展開にコラボカフェにと、いろいろな展開があって、本当に恵まれた作品だったなぁとしみじみ感謝の気持ちがわき上がってきます。

楽しい思い出ばかりですが、ひとつだけ、バルタザールを演じてくださった藤原啓治さんがご逝去されたことは本当にショックが大きくて、でも個人的に何か言うことも憚られたので今まで何も書けませんでしたが、スタッフ一同、本当に藤原さんのバルタザールが大好きでした。

どのくらい大好きだったかというと、猛獣の後の某作品にも登場させてしまうほどで。今でも、ブースの中で気さくに笑って下さった藤原さんのお姿が目に浮かびます。この場をお借りして、心よりお悔やみ申し上げます。

今回のSSのためにシナリオを読み返してみて、むしろ今のタイミングにぴったりな作品なのではと思ったりしたので、身の回りで未プレイの方がいたら、ぜひ勧めてください。動物って本当にいいですよね。かわいい動画が流れてくる度に身もだえしてます(笑)。

長い間この作品を愛して下さったみなさん、本当にありがとうございます。次にお会いできるのは、もしかしたらまた10年後!?だったりするかもしれませんが、これからもずっと応援して下さいね。


ディレクター 中村和騎

祝! 10周年......!!

それで何というか、ありきたりではありますけど、
「もうそんな経つの!?」というのが正直な感想ですね。

だって、この10年の間にあったことなんてせいぜい、
GHP作ってTK作ってティアブレ作って――


............いや、結構経ってるわ。
全然まったく「もう」なんかじゃなかったわ。


そりゃ面接で「猛獣やりました。中学の時に」とか言う子も現れるし、
自分も年一の健康診断で黄色信号の1つ2つ出るわけだよ......。

し、しかし何にせよ!

このコンテンツの入れ替わりが激しい世界で、
発売から10年経っても移殖やグッズ、コラボだったりと、
何か展開させてもらえるというのはとてもありがたいですね。
自分が10年前に好きだったアレやコレやとか、
元からのご長寿作品でもない限り展開途絶えて久しいですし。
(逆に10数年ぶりに連載再開した作品とかもありますが......)

何にせよ、それもこれも、これまで何度となく言ってきましたが、
「ファンのみなさんのおかげ」――ただただこれに尽きます。

そしてまた、そんなみなさんに自分から伝えたいことも、
これまで何度となく言ってきた、この言葉に尽きますね。

――これからもどうか、【猛獣】をよろしくお願いします!


【キャラクターコメント】

※画像をクリックorタップで拡大画像が表示されます。

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【10周年記念SS】

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「ありがとうございました!」

私は、お店を出て行くお客さんの背中を見送る。

何気なく窓の外を見ると、もう日が傾きかけていた。

「ごめんなさいね、ティアナ。今日はせっかくの誕生日なのに」

「もう、ロッテったら。そんなこと気にしなくていいって言ってるでしょ」

ロッテは焼き上がったパンを棚に並べながら、申し訳なさそうにため息をつく。

「でも、本当は何か予定があったんじゃないの? 例えば、ファザーンの......」

私はカウンターの中に戻りながら、小さく首を振った。

「そんな予定、あるわけないじゃない」

「え? そうなの?」

「だってみんなはファザーンの王族よ? 私みたいな庶民の誕生日に合わせて、わざわざ城をあけたりできると思う?」

「それはそうかもしれないけど。じゃあ、会えない代わりに手紙をくれたとか?」

私はおどけて笑ってみせながら、ないないと手を振った。

「そ、そう......。あ、でも、ローゼレット城には届いてて、クラウス兄さんが持ってくるかもしれないわね」

ロッテは励ますような明るい口調で微笑んだ。

私が気落ちしていると思ったのかもしれない。

「もう、変な気を遣わないでよ、ロッテ! 私には、あなたが焼いてくれたこのケーキがあるし!」

私は満面の笑みで、棚にしまってあった包みを持ち上げる。

ロッテが私のために焼いてくれた、特製ケーキだ。

「日持ちするから、ゆっくり味わって食べてね、ティアナ」

「うん! 今日帰ったら、さっそく」

そんな話をしていると、勢いよく店の扉が開いて誰かが中に入ってきた。

それは、私がよく知る人物で――。

「ちわー」

「え......!?」

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「よっ、ティアナ。元気してたか?」

くったくのない明るい声と、私の反応を楽しむような笑み。

嬉しくなった私は、久しぶりに見たその姿に駆け寄る。

「シルビオ......! 最近顔を見ないから心配してたのよ」

「わりぃわりぃ、ちょっと手間のかかる依頼を受けててさ。あちこち飛び回って大変だったんだよ」

「手間のかかる依頼?」

「あ、いや......。オレの話なんていいだろ? そんなことよりさ、受け取って欲しい物があるんだけど」

シルビオは私の問いを打ち消すように、手に持っていた小瓶を差し出した。

「これ、お前に渡して欲しいってゲルダに頼まれて」

「え? ゲルダが? もしかして......」

「今日誕生日だろ? おめでとう、ティアナ」

「あ、ありがとう......!」

私は差し出された小瓶を受け取りながら、嬉しさに口元を緩める。

「自分で渡せばいいのに、最近顔を合わせてないから、なんだか恥ずかしいって言ってたぜ。相変わらずあいつが考えてることはよくわかんねーよな」

「そ、そうなんだ。ゲルダの人見知り、まだなおってないのね」

「一生なおんねーよ。てか、あいつの友達なんてティアナしかいねぇんだから、こんな時くらい、頑張って出てくればいいのにな」

私は受け取った小瓶を目の高さに持ち上げて、じっくりと眺める。

ゲルダとシルビオ、どっちが私の誕生日を覚えていてくれたのかはわからないけど、その気持ちが本当に嬉しかった。

「ティアナ、私ちょっとパンの配達に行ってくるから。悪いけど店番お願いね」

「うん、行ってらっしゃい、ロッテ!」

ロッテはシルビオに小さく会釈をして店を出て行った。

もしかしたら気を利かせてくれたのかもしれない。

「ところでシルビオ。この瓶......ゲルダがくれたってことは、何かの薬?」

顔の横で小瓶を軽く振りながらたずねると、シルビオはにやりと口の端を持ち上げた。

「聞いて驚くなよ。中身は、見たい夢が見られるっていう、とっておきの秘薬だ」

「え!? 見たい夢が見られる......!?」

驚いた私は、瓶の中身をまじまじと見つめる。

「ほ、ホントにそんな物が......?」

「最近あいつも結構腕を上げてるんだよな。まぁラウラに手伝ってもらってたから、失敗作ってことはねーだろ」

シルビオの言うとおりなら、品質を疑う余地はなさそうだ。

「ただ消費期限があるから、今日中に使ってくれってさ」

「そうなんだ。じゃあ、今日の夜さっそく使ってみるね」

「ああ、そうしてくれ」

「わざわざ届けてくれてありがとう、シルビオ。ゲルダにお礼と、会いたいって伝えておいて」

「あいつ、それを聞いたら喜ぶよ」

シルビオは優しく微笑みながら、私の手を取る。

「そんで、こっちはオレから」

「え?」

引き寄せられて均衡を崩した私は、シルビオの胸に抱き留められる。

シルビオは私の腰に両手を回しながら、耳元に口を寄せて――。

「大好きだぜ、ティアナ」

くすぐったさに思わず身をすくめると、柔らかい唇が頬に当たる感覚がして、驚いた私はすぐ側にある顔を見上げた。

「え、いっ、今の......!?」

「おめでとうのキス」

「おめでとうの、キス!?」

「そ。オレからの贈り物」

じわじわと顔が赤くなるのがわかって、私は両手で頬を押さえる。

抗議すべきか、お礼を言うべきか悩んでいると、ゆらりと黒い影がシルビオの背後に近づいて――。

「人の店で何をやっているんだ」

怒りをはらんだ、地を這うような低音。

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「うげっ、クラウス」

首根っこを掴まれたシルビオは、頬を引きつらせながら振り向いた。

「どうやら客ではなさそうだな」

「あーあ、面倒臭いヤツに見つかっちまった」

「仕事の邪魔だ。出て行ってくれ」

「はいはい、わかったよ。じゃーな、ティアナ! 次はゲルダも連れてくるから!」

シルビオは軽い身のこなしでクラウスから逃れると、ひらひらと手を振りながら店を出て行った。

「はぁ......相変わらず図々しいヤツだな」

「お、おかえり、クラウス」

「お前もお前だ。脇が甘すぎる」

じろりと睨まれた私は、気まずさに目を泳がせる。

「えっと、どこから見て......」

「あいつがお前の頬にキスするところからだ」

「あ、あはは......」

「たっぷり説教してやりたいが、今日はお前の誕生日だからな。このくらいにしておいてやる」

「あ、ありがとう。クラウス」

「ところで、ロッテはどこへ行ったんだ」

「配達に出ちゃってるけど」

「そうか......。せっかくの誕生日なのに、手伝わせてしまって悪いな」

「もう、ロッテと同じことを言うのね。そんなこと気にしなくていいのに」

「俺が休みを取って一緒に過ごせればよかったんだが、陛下があれこれと、どうでもいい雑用を押しつけてくるんだ」

クラウスは、疲れた様子で深々とため息をつく。

陛下は、気軽に城の外へ出られなくなってしまった分、何かと鬱憤をため込んでいるらしく、クラウスはそのとばっちりを受けているようだった。

「本当に気にしないで、みんな忙しいのはわかってるから」

「みんな......か。手紙のひとつでも届くかと思っていたんだがな」

なぜか申し訳なさそうに目をそらせるのを見て、私はすぐ事情を察した。

私は、クラウスがマティアスたちの手紙を持ってきてくれたんじゃないかと、少し期待していた。

だけど......。

「私のことなんて忘れてるのかも」

「それはない」

クラウスは、私の言葉にかぶせるように力強く断言する。

「マティアスとの付き合いはお前より長い。その分、お前より深く理解しているとまでは言えないが......そこまで薄情なやつじゃない」

どこか照れくさそうにそう言いながら、クラウスは私の耳の上辺りに手で触れた。

「気の利いた物を用意できなくてすまないな」

「え......?」

「この色が、お前の髪に合うと思ったんだ」

窓に自分の姿を写すと、青と緑が混ざった鮮やかな羽根飾りが、夕日を浴びて輝いていた。

「わぁ、きれい......!」

「誕生日おめでとう、ティアナ。来年も再来年もずっと、こうして祝ってやる。俺だけは何があっても駆けつけるから、安心しろ」

「クラウス......」

側で支えてくれる人がたくさんいるのはわかっていても、あの広い家に1人でいると、時折寂しさが胸に迫って......。

そういう私の弱さを理解して、寄り添ってくれるクラウスの優しさが、心に響いた。

「ありがとう、本当に――」

「クラウス様!!」

私の声をかき消すように、荒々しく店の扉が開く。

クラウスは、心底嫌そうな顔で背後を振り向いた。

「やはりこちらでしたか。陛下がお待ちです」

「拒むようなら、担いででも連れ戻せとのご命令で」

クラウスを取り囲んだ兵士たちは、有無を言わさぬ迫力で詰め寄る。

「はぁ......。すまない、ティアナ」

「ううん、お仕事頑張ってね、クラウス」

私は店の外に出て、城へ戻るクラウスと兵士たちの後ろ姿を見送った。


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その日の夜、店番でくたくたになっていた私は、ソーセージと余り物で作ったスープとパンで、簡単な夕食を用意した。

(そういえばこれ......初めてみんなが私の家に来たときに食べさせてあげたスープだ)

市場で檻に入れられ、すっかり衰弱しきっていたライオン、オオカミ、アヒル、ウサギ――。

生のお肉や魚を食べさせられそうになって動揺するマティアスたちの顔は、昨日のことのように思い出せる。

(マティアスはお肉、エリクは甘い物が大好きだって教えてくれて、アルフレートは、こんなに美味しいスープなら毎日でも飲みたいって言ってくれた。ルシアは、身体に染み渡るって、涙目になって......)

うつむいた拍子に、ぽたりと涙がスープに落ちた。

あの頃は、楽しかったな。

みんなに会いたい。

叶わない願いだとわかっていても、5人で過ごしたあの日が懐かしくて、愛おしくて――。

「あ、そうだ!」

私は、ゲルダにもらった小瓶のことを思い出した。

〝見たい夢が見られる秘薬〟

その効果が確かなら、夢の中でマティアスたちに会うこともできるはず。

私は急いで台所を片付けて、2階の自分の部屋へ走った。

(本当に叶うなら、みんなに会わせて欲しい。夢でもいいから、みんなの声が聞きたい)
瓶の中身を一気に飲み干して、寝台に横になる。

すると、猛烈な睡魔が襲ってきて、私はあっという間に意識を保つことができなくなり――。

(あれ......? 誰かが、私を呼んでる)

耳元で響く、優しい声。

「おい、ティアナ」

今度はもっとはっきりと聞こえた。

「こんなふうにお前を起こすのは久しぶりだな。あのときはまだ、ライオンの姿だったか......」

声の主が誰かわかった私は、慌てて飛び起きる。

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「マティアス......!?」

きらきらと揺れる金色の髪。

いつもの自信たっぷりの笑みではなく、優しく目を細めて私を見下ろしている。

「寝起きに俺の美声が聞けて、いい目覚めだったろ?」

「マティアス、本当に......!?」

夢で会いたいと願ったし、ゲルダが作った薬の効果を信じていなかったわけじゃない。

それでも、今目の前で起きていることを、すぐには受けとめきれなくて......。

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「ずりーぞマティアス。オレだってティアナを起こしたかったのに」

「僕もだよ。長男だからって、なんでも自分優先ってのは考え物だよね」

「不平を言うな。今日はティアナの誕生日、争いごとはなしにしよう」

マティアスの背後で、私の顔を見ようと首を伸ばすルシアとエリク。

そしてアルフレートは、その2人の肩に優しく手を置いた。

ほんの少し前までは、毎日のように見ていた懐かしい光景、懐かしい声。

「みんな......」

やっと絞り出した声は、情けなく震えていた。

「お、おい、ティアナ!? なんで泣いてるんだ!?」

「きっとマティアスの起こし方が怖かったんだよ」

「妙なことを言うな。これ以上ないほどに愛情を込めてささやいてやったというのに」

「大丈夫か、ティアナ。何か悲しいことがあったのか?」

心配そうに顔をのぞき込むアルフレートに、私は慌てて首を振った。

「ううん、そうじゃなくて。みんなに会えたのが、嬉しくて......」

そう言うと、アルフレートたちは、ほっとしたようにお互いの顔を見合わせた。

「腕を上げたわね、ゲルダ。まさか本当に、見たい夢が見られるなんて」

見回すと、辺りには私が目を閉じたときと同じ光景が広がっていた。

夢の中とはいえ、毎日見慣れた自分の部屋だからか、細部まで寸分の違いなく再現されている。

それは、マティアスたちの姿も同じで......。

「みんなの顔がはっきり見えて、声も聞こえて。こんな夢ならずっと覚めなければいいのに」

「お前の言うとおり、これは夢だが、ただの夢じゃない」

思わず本音を漏らすと、マティアスはふっと優しく微笑んで私の頬に触れた。

「え......?」

アルフレートが、誇らしげに胸を張る。

「今日はお前の誕生日だからな。とっておきの趣向を用意させてもらった」

「あのね、ゲルダが君に渡した薬、実は僕たちが依頼して作ってもらった物なんだ」

「依頼して、作ってもらった......?」

事情をのみ込めず、私はそのまま聞き返す。

「これはただの夢じゃなくて、お互いの意識が繋がってるってこと」

エリクに説明されてもまだわからず、私は首をかしげる。

「お互いの意識が繋がってる......。じゃあ、今私の目の前にいるみんなは、本物ってこと?」

「そう、本物だ。信じられなければ、何か特技を見せてやろうか?」

身を乗り出したアルフレートを見て、ルシアがあきれた声を漏らす。

「どうせまた腹筋とかする気だろ」

「あれはただの鍛錬、特技ではない。例えば......最近さらに磨きがかかった剣技とか」

「アホか! んなもん家の中で振り回すな!」

2人のやりとりに、私は思わず吹き出した。

「なるほど......これが夢ではないと証明するのは、意外と難しいな」

マティアスの言葉を聞いて、珍しくエリクが同意する。

「ホントだね。まぁ、今は信じられなくても後でわかるよ。みんな同じ記憶を共有してるんだから」

「同じ記憶を、共有......」

半信半疑だった私も、マティアスたちの様子を見て、今目の前にいるみんなが本物だということをようやく受け入れることができた。

「夢の中で会える薬なんて、すごいじゃない。まさかゲルダが、そんな高度な秘術を使えたなんて」

「あー、まぁ、ラウラがついてるからな。あいつが作ったって言っても、瓶に詰めただけとか、その程度かもしれねーぞ」

「その程度にしておいてもらったほうが安全だよ。僕たちが集めた貴重な素材が無駄になったら、せっかくの計画が台無しだし」

「確かに、物によっては一年に一度しか手に入らない物もあったからな。失敗されたら、ティアナの誕生日を祝えなくなってしまう」

「一年に一度? そんな貴重な物を......」

「だが、お前の喜ぶ顔が想像できたからな。少しも苦じゃなかった」

優しく微笑むアルフレートの言葉に嘘はないとわかって、私はまた涙ぐむ。

こぼれ落ちそうになった涙を、マティアスが長い指先でそっと拭ってくれた。

「本当は、カトライアまで会いに行きたかったんだが......王が気軽に城をあけるわけにはいかないからな。かといって、身軽なルシアとエリクだけ行かせるのも癪だ」

「王様のくせに我が儘だよね。僕たちだけ会いに行くのはずるいなんて」

「ホント、大人げねぇよ」

「うるさい。他ならともかく、ティアナのことだけは譲れない」

そっぽを向くマティアスの、どこか子供のような表情に、私は小さく吹き出した。

「あのね、今日の夜、初めてみんなと会った時のスープを飲んで......懐かしいなって思い出してたの。そしたら、急に寂しくなって、泣けてきちゃって」

「寂しいと思っていたのはお前だけじゃない。俺も、ずっと会いたかった」

マティアスは私の肩を抱き寄せて、優しく髪を撫でる。

「あ~! ずるいぞマティアス! 1人だけベタベタしやがって!」

「あのさぁ、この夢の中で瀕死になったら、起きたときどうなるんだろうね。ちょっとやってみようか」

「エ、エリク。目がこえぇよ。冗談だよな......?」

「え? 駄目? だったら、気を失うくらいで妥協するけど」

エリクとルシアが、マティスの周りでぎゃーぎゃーと騒ぎ出す。

それを見ていたアルフレートは、楽しそうに目を細めた。

「この感じ、久しぶりだな。騒がしいが、お前の家で暮らしていたときのことを思い出す」

「うん、私もそう思ってた。すごく懐かしい」

私も同じように目を細めて、みんなの顔を見渡す。

「ティアナ、ぼんやりしている暇はないぞ。この夢はそう長くは続かない」

「え、そうなの!?」

「1時間程度しか効果が持続しないと聞いているが」

「1時間......」

ずっとこのままみんなと一緒にいたいと思ってしまった私は、つい声が曇ってしまう。

「そんな顔をするな。さあ、何がしたい? 次に会えるときまでお前が寂しくないように、どんなわがままでも聞いてやる」

マティアスの後ろで、アルフレートが深く頷く。

「お前が望むなら、腹筋でもなんでも、好きなだけ触らせてやるぞ」

「んなこと、ティアナが喜ぶわけねーだろ......」

「じゃあ、ルシアのお腹をぷにぷにしたい?」

「ぷにぷにしてねーよ! めちゃくちゃ引き締まってるっつーの!」

エリクにからかわれたルシアは、顔を真っ赤にして否定する。

「あ、でもそれ、ちょっといいかも......」

「えっ......。さ、触りたいのか? 俺の腹......」

ルシアはよほど驚いたのか、ぎこちない動作で恐る恐る私の顔を見つめる。

「ま、まぁ、お前がどうしてもっていうなら、オレは......」

「うん、みんなの身体を、撫でさせて欲しい!」

「えっ......」

4人の声が重なった。

かなり驚いたのか、目が丸くなっている。

「あ、違う! 今の姿じゃなくて、動物の姿でって意味!」

妙な誤解を生んでしまったことに気づいた私は、顔を真っ赤にして訂正した。

「あ、ああ、なんだ、そうだよな。お前が異常な動物好きだってことを忘れてた」

「動物の姿で、か......。相変わらずだな、ティアナ。もっと色っぽい要望を期待していたんだが」

マティアスはがっかりした顔で肩をすくめたけど、私の願いはきっと想定内だったと思う。

「でも、この夢の中でそんなこと、できるのかな」

「大丈夫だよ。この部屋にあるでしょ? 金の粉」

エリクに言われて、私はいつも日記を書いている机の一番下の引き出しを開けた。

「あ......あった!」

しっかりと結ばれた紐をほどいて袋の中を見ると、金色の粉が懐かしい輝きを放つ。

「はぁ~、せっかく会えたのに、またアヒルの姿になるのか......」

「今日はティアナの誕生日だ。ティアナがそれを望むなら、我々は従うのみ」

「いつでもいいよ。遠慮なくかけちゃって」

「ありがとう、みんな」

私は袋の中身を、4人の身体に振りかける。

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すると、まばゆい光が部屋を包んで――それが収まる頃、4匹の動物が照れくさそうな顔で私を見上げた。

「っ......!」

私は思わず、ライオン姿のマティスの身体に抱きつく。

「嬉しい......! またこの姿のみんなに会えるなんて......!」

「おい、いきなり抱きつくな。まったくお前は、相変わらず俺たちがこの姿の時だけ積極的だな」

「だってマティアスのたてがみ、すごくふさふさしてて気持ちいいから」

「てか、さっきまでずっと泣きそうな顔してたくせに、急に元気になったな」

「僕たちのこの姿って、そんなに魅力的なの? 僕にはよくわかんないよ」

「まぁ、少々複雑だが......ティアナが喜んでくれるなら、なんでもいい」

マティアスに抱きついている私に、アルフレートたちが身を寄せてくれる。

みんなの体温が、ふかふかの身体が、優しく私を包んで......。

「鼻の下が伸びてるぞ、ティアナ」

「もう、いじわるな言い方しないで。幸せそうって言ってよ」

「幸せなのか?」

「うん、私......今、すっごく幸せ」

みんなの身体からは、ぽかぽかしたお日様の匂いがして、私は満面の笑みで目を閉じる。

「素敵なプレゼントをありがとう」

目を閉じていても、みんなが嬉しそうに笑ってくれたのがわかって......私はもう一度微笑んだ。


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