CLOCK ZERO ~終焉の一秒~ 10周年!
2020年11月25日
C Z 10 周 年 ☆.。.:*・゚
皆様こんにちは。
【CLOCK ZERO ~終焉の一秒~】担当、
ディレクターの島です。
ご無沙汰しております!
「Devote」の発売後にまた来ると言っておきながら、顔を出せずに申し訳ない。あれから世情的に色々なことがありましたね......。私自身も細々と環境の変化がありましたが、まさにCZのテーマである"今を大切に"を実感した1年でもあったと思います。
皆さんが健やかに過ごせることを願うしかできないのが歯がゆいですが、どうぞ体調にはお気をつけて。このブログがほんの少しでも日々の楽しみになれば嬉しいです。
......なんだかしんみり始まってしまいましたが(笑)
\2020年11月25日は、CZ発売10周年!/
10年間の感謝をお伝えすべく、
ささやかながらお祝いに馳せ参じました。
とはいえ、10年分の想いとなると......なかなか言葉では表しきれません。開発当時は【2010年から2020年へ】を作品のキーワードにしましたが、まさか10年後もこうしてブログを書けるとは思いませんでした。駆け抜けてきたなあ......(走馬灯)
さて、せっかくなので先日の猛獣ブログでもやっていた【10年間の振り返り】でもやってみたいと思います!(猛獣も10周年おめでとうございます!)
ただの島の思い出語りなので、暇でしょうがないときにでもゆるーくご覧ください。
*☆*2010年*☆*
PS2版「CLOCK ZERO ~終焉の一秒~」発売!
だいぶ記憶が薄れてきていますが、オトメイトパーティーでOPムービーを初公開したときに、会場から温かい拍手をいただいたのをよく覚えています。あまりに緊張していて、当時一緒だったスタッフと泣き崩れたので記憶が濃い(笑)
最新作では搭載されている選択肢スキップや課題スキップもなく、課題パートまわりのシステムはかなりプレイしづらかったと思います......それでもやりきってくださった猛者に改めて感謝(´;ω;)
*☆*2011年*☆*
ドラマCD「ヘルズエンジェルズ(以下略)」発売! すみませんタイトル長えなって......(つけた本人が言う)。その後もちょこちょこ活躍する戦隊パロディネタ。シリアスな本編軸ではできないことが多かったので、パラレル設定を作っておいてよかったです(笑)
そして、PSP版「Portable」発売!
ちょうどハード移行時期だったため、スピーディーな移植でした。スケジュールの関係でキツキツでしたが......それでも課題パートの改善とすぺしゃる課題と後日談、そしてレインのサイドストーリーは入れ込みたい! と奮闘し、結局えらいひとから「......多くない?」と怒られるのでした。
さらに同月、ドラマCD 「それから」の記憶 ~ぼくらの中学生日記~ 発売!
初代開発後にいちばんやりたかったのがこの中学生編。当時ゲームとしての実現は難しかったので、「Devote」で新規立ち絵と共に収録できたのが本当に感慨深かったです。8年越し! 贅沢にドラマCD用に作っていただいた主題歌「青空の確率」も、かけがえのない宝物になりました。
......2011年けっこう頑張ってるな!? 他にもビジュアルファンブック発売や初のオトパ出演もあり、もりだくさんな1年でした。
*☆*2012年*☆*
ソングコレクション「Beautiful World」が発売した年ですね。主題歌や挿入歌、イメージソングが収録された贅沢な1枚。「子守唄」をイメージして制作していただいたジャケットイラストもすごくお気に入りです。
オトパだけでなく「JAPAN 乙女フェスティバル2」に出演させていただいたのも思い出深いです。覚えてくださっている方いるかなあ......雪を降らせるお話。あれけっこういい話なんですよ......彼女の笑顔が見たかったってさあ......ウッ(居酒屋みたいなテンションになってきた)
昔のフォルダを漁ってみたら、「オトメイトじゆうちょう」でレインのSSを書いたのもこの年ですね! あれは当時たくさん反響をいただいたのですが、今でも「あの続きが読みたい」と言ってくださる方がいらっしゃって嬉しいです。確約はできないんですが、読みたいと言われるとやっぱり書きたくなります(笑)
さらに、エイプリルフール企画でガチのラジオ収録をするという無茶をやらかしたのもこの年でした。なんであの企画通ったんだろう。すべては事務所さんと役者さんのおかげです、はい。
*☆*2013年*☆*
まさかの 舞 台 化! 当時はびっくりな展開でした。
監修側としても初めてのことだらけでボロボロになりましたが(笑)スタッフや役者さんの熱意に触れて何度も涙した思い出。三次元での表現の幅に驚き、創作への刺激にもなった経験です。
この後も再演含め計5回も続けることができた舞台CZ。
今でも劇中歌を歌えます(笑)
\ゆーしんかい ゆーしんかい/
この年はオトパ不参加でしたが、まさかの出演声優さんがCZキャラを演じてくださるというサプライズも。当時、めちゃくちゃ感動して泣きました。
(だんだん小学生の感想文みたいになってきたよ)
*☆*2014年*☆*
3月に舞台「A live Moment」の再演があり、「CLOCK ZERO MUSEUM」を各地で開催していただき、オトパに出演、9月にはドラマCD「Nobody Knows the world ~誰も知らない世界~」が発売、さらに11月に舞台「Rin-g-age」上演、そして12月にドラマCD「ヘルズエンジェルズ2(以下略)」が発売!
......だいぶ詰め込んだな......?
当時、別作品のシナリオ補佐や進行管理、イベント担当とかもしていたので(むしろそっちがメインだったので)、無茶していたなあとひしひし。思い出に浸りすぎて酒が飲みたくなってきた。
*☆*2015年*☆*
PSVita版「ExTime」発売!
2回目の移植です。ボリューム的にやらかしまくった思い出しかありません。今思い返しても、よく許されたな、いろいろと......(笑)無茶ぶりを叶えてくれた当時のスタッフには頭が上がりません。
課題パートを大幅リニューアルし、選択肢スキップや主人公の名前呼びに加え、央ルートを追加、さらに後日談を追加とやりたい放題でしたが、ここからCZに入ってくださった方も多いと聞くので、頑張ってよかったなあと思えた開発でした。
そして! 公式アートブックやキャラクターCD「Grace note」シリーズもこの年に発売しました。「Grace note」収録のミニドラマは本編に劣らず濃い内容のものを作れたので、どれもお気に入りです。「......兄さん」は収録のとき涙腺が崩壊しました。
*☆*2016年~2018年*☆*
オトパへの出演や舞台、グッズなど様々な展開をしていただいたのですが、やや控えめな期間でした。何かにつけて「単独イベントやりてえ......」と野望を呟きながらも(笑)この間もメールなどで応援してくださったファンの方々には本当に感謝です。
オトパの朗読劇で中学生編の立ち絵を初出しできたのがとても楽しかったのを覚えています。私も席に座って観劇していたので、周囲から「あれ、この絵見たことない......中学生? このために作ったの?」というどよめきが聴こえてニヤニヤしてしまいました。
*☆*2019年*☆*
Nintendo Switch版「Devote」発売!
満を持して、「中学生編」を追加した3回目の移植。課題の回答スキップも搭載して、これぞ完全版という自負があります。(いえ、それまでも未完成のものを発売したというわけではなく、その時々で全力だったのですが......!)
ここで少し「Devote」の内容に触れますが、発売前まで隠していた要素がひとつだけありました。それが【18歳のレイン・リンドバーグ】。せっかくなのでここで全身絵をお披露目します!(発売から1年経っているので、ネタバレ解禁ということで......)
中学生編で彼と主人公の邂逅を描けたことは、CZの物語にとって重要な意味を持ちました。やっとキレイに終わらせることができたのではないかなと。毎回こんなこと言ってますが、今回は本当に!(笑)
「忘れたくない」という気持ちの強さに負けないくらい、悲痛な覚悟で導きだした「忘れるべきだ」という答えは、彼女だけでなく彼らが未来へ進むために必要なものだったと思うのです。
ちなみに18歳のレインのテーマは「より紳士に、より性格悪めに」でした。壊れた世界の彼とは違って(この時点での主人公には)思惑がないのでジェントルマンな印象を出しつつも、目的に対する姿勢と若さゆえに、刺々しさ・余裕のなさもプラス。彼の本質に近いところを表現できたので、書きやすかった気がします。
*☆*2020年*☆*
10周年オンリーショップ開催! ......のはずが、残念ながら中止、通販のみの対応となりました。スタッフの方々が内装にも凝ってくださって、装飾物の監修などもしていたので、本当に悔しかったです。それでも関係各所のご尽力で通販対応に切り替え、皆様のお手元に届けることができて良かった......。
「希望の光」をイメージして描いていただいたこちらのイラスト。それぞれの表情や色彩で、ふんわり温かな気持ちになっていただけたら嬉しいです。
そしてオトメイトガーデンやアニメイトカフェとのコラボも実現していただき、今に至ります。不安な中でもご来場くださった皆様や、行けない悔しさを堪えながら応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。ちなみに私も行けなかったのでめちゃくちゃ悔しいです!!
......という感じで。思い出のアルバム語り(in居酒屋)みたいになったんですが、誰得なんだろうこれ。特に真新しい情報もなくてほんとすみません。
やっぱり10年分の想いを言葉にできないのが心苦しいのですが......ただただ、たくさん愛してくださって、本当にありがとうございます。これからも、CZという作品、キャラクターたちが皆さんの心にそっと寄り添える存在であったら嬉しいです。
キリがなくなるので語りはこのへんにして。
最後に書きおろしSSをお届け! どうぞー!
【 Unbirthday to you 】
――2022年某日 都内
『お席はこちらです』と店員に案内された部屋には、やはり誰もいなかった。加納理一郎は小さく息をつくと、端からふたつめの席に腰を下ろし、なんとはなしにメニュー表を眺める。
(......疲れた。今日は飲みたい気分だな)
ぼんやりと思考し、すぐに思い直した。面子を考えれば、深酒で後悔するのは目に見えている。全員社会人になったというのに、この集まりのときはまるで小学生の頃に戻ったかのようにタガが外れるのだから。
つい苦笑すると同時、背後の襖が開いて誰かが入ってきた。
「円。お疲れ」
「お疲れ様です。りったさんが一番乗りですか。予想通りですね」
「まあ、いつものパターンだな。オレと円が5分から10分前には店についてる」
「撫子さんも基本こっち側ですが、今日は遅れるんですっけ?」
「ああ。仕事と勉強でほぼ休日ないって嘆いてたぞ。専門にもよるだろうけど、研修医ってのはどこもそんなもんじゃないか」
「で、定刻になると大抵は央かトラさんあたりが来るはずですが......」
向かい側に座っておしぼりで手を拭く円に、メニュー表を手渡す。理一郎は『季節のおすすめ』と書かれた別紙に目を落としながら、口を開いた。
「最近、仕事のほうはどうなんだ?」
「ぼちぼちです。ありがたいことにお得意さんが増えたので安定してますけど、世の中の流行りってのは変わっていきますから。――先に飲み物、頼みますか」
「ああ......そうだな」
「? なに笑ってるんですか?」
「こんな風にお前と話せるのが未だに不思議だなって。本当に大人になったよな」
「それ何回目ですか。はあ......あなたたちこの会になるとすぐ懐古に浸るんですから。いつまでも子供扱いはやめてください。たかが1歳違いですよ」
「いつまで経っても円の成長はしみじみするんだよ」
「人のこと言えた立場ですか。小学生の頃のあなたもだいぶひねくれてましたよ」
「そうか......? だいぶ常識人で通ってたと思うんだが」
「周りが濃すぎましたからね。常識のハードルが低くなるんです」
他愛もない会話を続けていると、気付けば時計の針は19時を指していた。そろそろか、と理一郎が心中で呟くのを見計らったように、廊下からやや粗雑な足音が響き、襖が開く。
「トラさん。時間ぴったりですね」
「お疲れ。まだこれしかいねえのか」
「ほとんどは仕事の関係で遅れるって連絡着てる。終夜は?」
「なんでオレに聞くんだよ」
「担当でしょう。いつもは連れてくるじゃないですか」
「あいつも仕事押してるってさ。駅までは来れるだろうから、着いたら連絡しろって言ってある」
「迎えに行ってやらないと一生辿り着かないだろうからな......」
「飲みもん頼んだのか?」
「ああ、今......西園寺は生でいいんだよな」
「ん、あと鳥皮ポン酢と出汁巻き」
「和風バーニャカウダ頼んでいいですか」
「いいな。オレはジントニックと......長芋のバターしょうゆ焼き」
「それ間違いねえやつ。あー、早く酒飲みてえ」
「すぐ来ますよ。......疲れた顔してますね。仕事忙しいんですか」
「納期が詰まってるからな。あと上司がクソ。加納も似たようなもんじゃねえの」
「オレのところは新卒の後輩がアレだな......」
「会社勤めは苦労しますね。ぼくは作業で籠ることのほうが多いですから、そういう意味では楽ですけど」
そんな雑談を続けながら注文を終えてまもなく、3人分の飲み物と肴が運ばれてくる。待ちきれないように寅之助が『じゃ、お疲れ』と音頭を取り、ちいさくグラスが合わさる音がした。
喉に流し込んだ酒と共に談笑する中、今度は廊下から店員に明るく応対する声と、軽やかな足音が近づいてくる。顔を見合わせた3人は、誰の到着か当然予想がついていた。
「はーっ、間に合った~! セーフ!」
「セーフかアウトで言えば15分遅刻なのでアウトです、央」
「ごめん! でも乗り継ぎがうまくいってさ、思ったより遅れなくてすんだよ」
「おー、英。先にやってるぜ。相変わらず、人気者は苦労すんな」
「そういえば、この前もテレビで見たな。取材多いんだろ?」
「本業がおろそかにならない程度に、制限はしてるんだけどね。ブランドイメージから全部断るのは厳しくって」
「大企業の辛いところだな。央、飲み物」
「とりあえずビールで!」
「だよなー。ビール派が少数派とかこの集まりくらいだぜ」
「あっ、そういえば、りったん! なんで言ってくれなかったの? 広告見たよ!」
「ぐっ......央、その話はするな」
「なんの話です? もしかして、また殿さんに頼まれてモデルでもしたんですか」
「ビンゴ! 取材受けた雑誌に載っててさ、びっくりしちゃった。ほら、前にもやってた眼鏡の。あのシリーズだよね?」
「おー、ついに加納もリーマン辞めてあっちの業界で食ってくんか」
「そんなわけないだろう。会社にも許可取ってるし......今度こそ最後だって約束した」
「りったんさんも殿さんに甘いですからね。頼み込まれて断れなかったんでしょう」
「昔から殿のお願いごとってなんか断れないよね~」
「あんまあいつ甘やかすなよ、調子に乗るから。......っと、噂をすればだ。駅着いたってよ。迎えに行ってくる」
携帯画面を眺めながら部屋を後にした寅之助の後姿を見守って、場に残された面々は一様に同じ表情をした。微笑ましいと言いたげな苦笑が刻まれている。
「......いちばん殿に甘いのはトラくんな気がするけどねえ」
「同感。なんだかんだ面倒見いいんだよな」
「子供の頃は猛獣みたいに扱ってましたけどね」
ふと、寅之助と入れ違いに店員の声がした。
『お連れ様、こちらです』の言葉に、慣れ親しんだ笑顔が会釈する。
「ごめん、遅れて。なんの話で盛り上がってたの?」
「鷹斗くん、お疲れー。トラくんが面倒見のいい不良だったよねって話」
「あはは。あ、じゃあ西園寺くんは終夜を迎えに行ってるのかな」
「さすが鷹斗さん、察しがいいですね。荷物こっちにどうぞ」
「勝手に始めてるぞ。ほら、メニュー」
「ありがとう。......西園寺くんって言えばさ、気になってることがあるんだけど」
「ん? なになに?」
「本人に聞こうか迷ってて......もしかしたらみんなには言ったのかな」
「なんの話ですか?」
「西園寺くんさ、彼女できた?」
「えっ!?」
「知りませんけど、いても不思議ではないでしょ」
「えええ......僕なにも聞いてないよ! そんな水臭い......」
「オレも聞いてないが......あいつはわざわざ言うタイプじゃないしな。鷹斗はなんでそう思ったんだ?」
「たまたま街で女の人と一緒にいるところ見て......邪魔しちゃ悪いなって声はかけられなかったんだけど、すごく親しげだったんだ」
「うーん......これは、トラくんが帰ってきたら尋問タイムだね」
「やめてやれよ、彼女のひとりやふたりで騒ぎ立てる歳でもないだろ」
「なるほど、りったんさんは彼女の3人や4人とっかえひっかえしていると」
「なんで微妙に増やしてるんだよ。残念ながら、そんな浮いた話はない」
「そうだよね、理一郎って一途だし」
「......この話はこじれるからやめないか」
「ふふ、俺はこじれてもいいと思うけどなあ」
「あ、バトルが始まっちゃいそう。まあ、そういうのはもっとお酒を入れてからするとして......とりあえず、もう1回乾杯しよっか」
「そうだね。みんな、お疲れ様」
そして再び乾杯の声が響く中、穏やかに宴は続く。仕事の話、家族の話、最近あったくだらない笑い話、子どもの頃の思い出話を交えながら話題はあちこちに飛び、自然と酒も進んだ。
そして、廊下からまたも聴き慣れた声がしたのは、飲み会開始から1時間ほど経った頃だった。
「皆、待たせてすまぬな。主役は遅れて登場するものだが......主役がいない宴など虚しいものだ。そなたたちに気を揉ませてしまったと思うと心苦しい」
「いや、特に待ちわびてないけど」
「相変わらず素直でないな、理一郎。撫子にはもう愛を伝えたのか?」
「ぶっ」
「理一郎、大丈夫? はい、おしぼり」
「ごほっ、終夜、お前......」
「......さすが殿さん。いろんなものをぶち壊してきますね」
「あははっ、もう才能だよね~」
「そうだろう、そうだろう。私が天賦の才に恵まれておるのは周知のことだが......そなたちのような得難き友人がいるからこそ、それを発揮できるのだぞ」
「バカ言ってないで、座れ。お前は今日酒いけんのか?」
「うむ、明日の予定は昼からだ。寅之助のオススメをもらおう」
「オレに選ばせんなよ......お、これは? 前に飲んだが美味かった。辛口がいいんだろ」
「おお、ではそれで。それとカニ味噌が食べたい気分だ」
「......面倒見のいい不良だなあ......。あ、もう不良じゃないか」
「あ? なんか言ったか?」
「いやいや、やっぱり仲良しだなーって」
「っつか、海棠。さっきからなに見てんだよ。お前も頼んだのか?」
「あ、う、うん。大丈夫」
「鷹斗さんはトラさんの彼女のことが気になって仕方ないそうです」
「わあ、円」
「彼女ぉ? なんの話だ?」
「トラくんが女の子と仲良く歩いてるとこ見たんだって。ズバリ、彼女できたの?」
「できてねえよ。最近で女連れ歩いた記憶なんて......あー、あれか。それ、お袋だろ」
「えっ......お母さん? そう言われると西園寺くんに雰囲気似てたような気がしなくも......」
「鷹斗にしては察しが悪かったな」
「どうせライバルが1人減るかもという期待で盲目になってたんじゃないですか」
「言い方がひどいなあ。でも俺の早とちりだったね。ごめん、西園寺くん」
「いや、謝られるとなんか虚しくなるんだが......」
「スッキリしてよかったよかった。殿の飲み物も来たし、もっかいかんぱーい!」
「うむ。ところで、今宵は鷹斗の誕生日パーティーで集まったのだったな? おめでとう」
「えっ。俺、今日誕生日じゃないよ」
「お前......10年以上経っても誕生日覚えられないのか」
「でも殿って他のこと忘れても、みんなの誕生日は覚えてるタイプだったよね」
「央の言う通りだ。私は物覚えが良いほうなのだぞ。今日は7月6日であろう?」
「今日は6月7日です」
「ああ、そういうオチな......」
「なんと......時の流れは残酷なのだな。よもや1ヵ月も錯誤するとは......」
「残酷なのはてめえの頭だ。それで合流したときからウキウキしてたんか」
「ふふ、ウキウキしてたんだ。ありがとう、終夜」
「贈り物まで用意していたのだぞ。後で受け取ってくれ。して、鷹斗の誕生日でないとすると、今日はなんの集まりだ?」
ふと、終夜の言葉に、場の全員がぱちくりと目を瞬かせる。
「なんのって言うと......えーと」
「なんでだっけ?」
「確か、円と飲んでるときにみんなの意見も聞きたいよねって話をして......」
「それは別件ですよ。生徒会メンバーの同窓会のときのやつでしょう」
「そういや、今日の幹事は加納だよな。珍しくねえ?」
「そうだけど、べつに理由があって集めたわけじゃない。ただ、撫子が......」
「あ、そうだ。最初はりったんから連絡が来て、撫子ちゃんが最近元気ないって言うから......」
「え、そうだったの? やっぱり仕事がキツイのかな......」
「目に見えてって感じじゃないんだ。最近それぞれ忙しくて集まってなかっただろ。だからたまには飲んで発散したいって......オレが思っただけで」
「......つまり、特に名目はない、と。まあ、それもいいんじゃないですか」
「懐かしいなあ。昔は何かにつけて集まってたよね。誕生日とか、クリスマスにバレンタイン、七夕、テストでいい点取ったお祝いとか、そんなのもあった」
「で、結局その名目を忘れてバカ騒ぎ。巻き込まれた記憶しかねえ」
「でも......なんでもない日でも集まれるって、すごく素敵なことだと思うな」
今度は鷹斗の言葉に、誰からともなく頷いた。
10年以上前に出逢い、個性がぶつかり合い、諦めることもできたはずの関係性は、こうして理由がなくとも酒を交わせる絆になった。脆いとも呼べる繋がりがいつの間にか強固に、揺るぎないものになっていたことを、誰もが尊く感じていたのだ。
「お前はいつもいい感じにまとめるよな......そういうとこカッコよくてムカつく」
「理一郎、もう酔ってる?」
「お水もちゃんと飲んでくださいね。りったんさん、携帯鳴ってますよ」
「......撫子だ。最寄りに着いたから向かってるって。迎えに行ってくる」
「俺も行っていい?」
「嫌だ」
「え、なんで」
「なんとなく」
「2人きりになりたいって素直に言えばいいのに。じゃないとついてくよ」
「べつに今じゃなくても、いつでも2人きりになれるからな、オレは」
「あー、そういうこと言う。俺だって理一郎に内緒で2人きりになれるけどね、いつでも」
「――落ち着け、鷹斗、理一郎。ここは私に任せてくれてもよいのだぞ」
「いやいやいや殿、空気読もう、ね?」
「っつか、てめえが迎えに行ったらそのまま行方不明になるだろ」
口喧嘩のような応酬を交わしながら、結局連れ立って理一郎と鷹斗が部屋を出て行く。残された男たちは、やっぱり苦笑を浮かべていた。
「......始まっちゃった。いつもの流れ。あれ鷹斗くんも酔い始めてるなあ」
「もうパターン化してるんですから、10年後もきっと変わりませんよ」
「それはそれでヤバくねえか? 10年後とか......オレらいくつだよ」
「トラさんたちは34歳ですね。ぼくと殿さんは33歳なのでセーフです」
「なにがセーフだよ。同じアラサーじゃねえか」
「っていうか今もう2022年なのヤバくない? つい最近2020年だったよね?」
「まことに時の流れは恐ろしい......だが、歳を取るというのは、そう悪いことでもない。環境が変わり、人の心も変わる。それは自分の足で人生を歩んでるという証だ」
「おお、殿がなんかいいこと言ってる......?」
「適当に言ってるだけだから気にすんな。肉食いてえな、肉」
「牛タンがオススメにありますね」
「私は豆乳鍋が良いぞ。やはり同窓の友として、闇鍋を囲んでこそ絆が深まるというもの」
「や め ろ。豆乳から闇に変化する過程に何があったんだよ」
2人分の席が空いたとはいえ、終夜の参入により騒がしくなった場には、笑い声が増えた。――ほどなくして、最後のメンバーの到着に、わっと部屋中が盛り上がる。
「撫子ちゃん! お疲れさま~!」
「遅れてごめんなさい。みんな、お疲れさま」
「全員で揃うのは久しぶりでしたか」
「っつっても、半年経ってねえレベルだろ。仲良いなオレら」
「トラくんが言っちゃうの!? ほんとそうだよ仲良し!」
「撫子、そなたと再び会えた今日が記念日だ。そなたのために用意したこの贈り物......受け取ってくれぬか」
「殿、それ鷹斗くんの誕生日プレゼントじゃなかった?」
「......みんな、いい感じに出来上がってるわね」
「おい、撫子。こっちに座れ。オレの隣」
「こっちも空いてるよ。俺の隣」
「えっと......」
「そこのこじらせた2人、撫子さんが困ってますよ。というか2人とも隣なんだから間に座ってもらえばいいじゃないですか。定位置でしょ」
「あはは......ほんっと変わらないねえ」
「変わらねえなあ。って、前もこんなこと言ってた気がするんだが」
「それは言わないお約束です。結局また10年後もぼくたちは......」
『こうして同じように笑っているんでしょうね』。
円の言葉は、喧噪にかき消された。それでも、全員が同じ想いなのだと知っていた。この他愛のない、なんでもない日々がいつまでも続くように願っていることを。
◇ ◇ ◇
――2020年某日 政府内
四角い窓の外で鳥が羽ばたいていた。
自然法則の壊れたこの世界では、人間以外の生物も生きにくい。
あの鳥はそれでも自由なのだろうか。
「円くん」
「! ......ルーク。なにか用ですか」
この人がぼくのことを本名で呼ぶとき、背筋がぞわりとする感覚がある。彼の中で何かルールがあるのか、気まぐれで呼んでいるだけなのか、未だに掴めない。
「キングを見ませんでしたか? 急ぎ承認が必要な案件がありましてー」
「知りませんよ。通信は?」
「切ってるみたいなんですよねー」
「じゃあ、あそこじゃないですか。いつもの」
「まあ、そうでしょうね」
苛立ちが喉の奥に込み上げた。彼はこうして、わかりきっていることをわざわざ答えさせるきらいがある。キングの姿が見当たらず通信も切っているとき、地下の研究施設にいることが多い。その行動原理なんて、ぼくより知っているだろうに。
「......ぼくは嫌ですよ。自分で行ってください」
「ちょっと手が離せないんですよー」
「どこからどう見ても暇人にしか見えませんが」
「またまたー、ボクの社畜っぷりはよく知ってるでしょー。早いとこ実験室に戻らないと、ミニッツが泣いちゃいます」
「......はあ。ぼくがキングのお守りに時間を取られてもアワーが泣くんですけど。わかりました。このデータを見てもらえばいいんですね」
ルークからタブレットを受け取ると、また窓の外で鳥の羽音がした。外壁の柵に羽が引っかかったらしく、バタバタともがいている。
眼前にある緋色の瞳がそれを視線の先で追って、苦笑した。まるでキミみたいですね、そんな声が聴こえてくるような、笑みで。
「......平和ですねー」
「......はい?」
聞き違いかと思ったが、はっきりと聴こえた。この壊れた世界の空を見て、囚われてもがく鳥を眺めて、平和だと、彼はそう言ったのだ。
「この不幸な世界で言うにこと欠いて平和、と。相変わらず頭がおかしいですね」
「おや、ボクも不幸な世界だとは思ってますよー? ただ、キミがここに来てもう4年ですか。こんなやりとりも慣れてきたものだなあと思って、ふとね」
「トップが仕事をサボって部下が右往左往するのが日常とか、4年間進歩しないことに焦りを覚えてほしいですね」
「研究は着実に、革新的に進歩してるんだからいいじゃないですかー。それに、変わらないのもある意味では幸せなことですよ。人間はいつだって変化を恐れ、停滞を恐れる生物です」
このまま変わらない日常を過ごすのは怖い。いつか解放されたい。けれど日常が壊れ、変わってしまうのが怖い。いつまでも殻に籠っていたい。そんな二律背反な感情は自分にも存在する。この人もそうなのだろうか。ならば、何から解放されたいと願い、何を守りたいと願うのか――知りたくないはずの好奇心が燻った。
「......ぼくにとって、今より最悪な状況なんてないですよ」
「はは、それは確かにー」
「もういいですか。忙しいって言ってましたよね?」
「そうでしたねー。それでは頼みましたよ、ビショップくん」
「......了解です」
この会話に、なんの価値も生産性もない。わかっていても脳裏に自問が過ぎる。ぼくは、生ぬるい日常と化したこの日々を、壊したいと願っているのだろうか。ぼくの願いが叶うとき、また誰かを――"彼"を傷つけ、罪を背負うことになると知りながら。
そして思う。目覚めない彼女の傍で待ち続けるキングは、その瞳が開く瞬間に何を想うのだろうか、と。それは、喜びだけとは到底思えなかった。
誰もが、変化と停滞を恐れている。それでも、歯車は廻る。
「キング、失礼します。ルークから伝言で――」
この世界が、終わりと始まりを告げるのは、もうすぐ。
The beginning of the end.
なんでもない日って素敵ですよね。
特典冊子やドラマCDでは現代大人verの雑談けっこうやってるんですが、そういえば誰でも見られるところではやってなかったなーと。楽しんでいただけたら幸いです!
さて、このあたりでお別れのお時間です。
彼らが生きる世界にもひっそり花が咲くように、どこにも希望はあります。
皆様の日常にも、ささやかな楽しみが増えていきますように。
それでは! 10周年、本当にありがとうございました!!
March winds and April showers bring forth May flowers.