夏空のモノローグ その17

オトメイトスタッフブログをご覧の皆様、こんにちはー。
【夏空のモノローグ】担当、デザインファクトリーの一(にのまえ)ジョーと申します。

第17回更新。
そろそろ次の節目、20回更新が見えてきましたねぇ。
……ぃよし、まだまだ頑張りますよ!

さて、今日はなんだかんだと盛りだくさん!
夏空スタッフの愛がこんもり詰まってます!!

ss企画、夏祭りも掲載してるよ!

今回は前置き短くこの程度にして……
ではではっ!
それでは本日の【夏空のモノローグ】blogスタート~。




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『夏空最新情報』
今回は既存情報のみとなります。

今回も既存のみです。
展開を希望して待っている方々ごめんなさい。

 

■発売記念ss
 7/29日、【夏空のモノローグ】発売に伴って公式サイトにて公開されました、
 発売記念ss!
 内容はゲーム本編とは違った構成となっていますが、
 科学部らしさをたっぷりと詰め込んだssになっていますので、
 まだ買っていないんだけど、
 『夏空ってどんなゲームなのかな~……』と気になっている貴女!
 体験版とあわせて、お試しな感覚で楽しんでいってくれれば嬉しいです!


■バナーキャンペーン結果発表
 ゲーム発売まで、公式サイトにて行われていましたバナーキャンペーン。
 その際の質問、
 ・『ゲームで気になる所は?』
 ・『夏休みを一緒に過ごしたいのは?』
 ・『好きな季節は?』
 といったアンケートの集計結果が発表されています。


■【夏空のモノローグ】製作秘話
 本作を製作するうえでの、
 企画・構想の逸話など、作品への真摯な想いが綴られています。
 プレイ前、プレイ後、どちらで読んでも問題ありませんので、
 一度は読んでいただけると幸いです。

 

以上、『夏空最新情報』でした~。




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さて、続きましてはスタッフコーナー。
毎週連続参加、ありがとう!
【夏空のモノローグ】原画家・ろく丸の登場です。
では、バトンタッーチ。





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こんにちは!
【夏空のモノローグ】原画担当のろく丸です。


前回の落書きは楽しんでいただけましたでしょうか?
【アーメン・ノワール】原画担当のいけさんは木野瀬がお気に入りらしく、
メッセの会話でこんなことを言ってましたよ。


/*============================================================================*/
いけ 「よし、木野瀬。まずカレーを作れ。それからてめーを食ってやる。
ろく丸「カレー作った意味は!?(笑)」
いけ 「ほんとだ! カレー作らせたのに食べてない(笑)」
/*============================================================================*/


いけさんらしい、アグレッシブな発言に笑いが堪え切れませんでした。
うっかりとはいえ、
食べたいと言われるほど愛してもらえてよかったね、木野瀬。


そうそう。


ブログ第15回にて告知されていたmaoさんのライブに、
一D・西村氏と共に行ってきました!
【夏空のモノローグ】にて使用されいる楽曲、
『ナツソラ』 & 『夏空のモノローグ』 のフルverもバッチリ聴いてきましたよ。


『ナツソラ』
明るく爽やかで、聴いていると元気が出ます。
2番の歌詞も間奏も爽やかで可愛らしい感じでした。
所々歌詞に合わせた振りもありましたよ。



『夏空のモノローグ』
しっとり切なく、それでいて明るい未来を目指す気持ちがひしひしと伝わってきます。
サビへの盛り上がり方にウルッときました。


ライブ後は三人で夕飯を食べながら
「生歌・生演奏っていいね!」
「フルver聴けて良かった!」
「で、今後のことなんだけど……」
などなど、【夏空】への愛を語ったり、結束を固めたりしたのでした。
めでたしめでたし。


……。
って、まだ終わりませんよ!


オトメイト×電撃Girl's Style共同キャンペーンの企画開催中です!
『オトメイト特典として
絵師のサイン&コメント入り特製ブロマイドをセットでプレゼント!』
というものがありまして、
【夏空のモノローグ】も参加しております。

ろく丸がイベントCGを一枚選び、そのCGにサインと一言コメントを入れました。
もしよろしければこちらをご覧の上、奮ってご応募ください。


ちなみに『ろく丸の○○。』はお休みです。
今週は記事の内容が濃いのでまたの機会ということで……。



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ろく丸のターンはまだ続きます。
なんの前触れもありませんが、ここでお祭りです!

葵祭りです!!

なんかもう、唐突ですみません(笑)
夏がタイトルにつく作品なので、この夏の間に何か特別なことをやりたいなと考えていたとき、
夏空スタッフの絵を描けるメンバーでこんな感じのやり取りがありました。



ろく丸「みんな、また夏空キャラを描いてみない?」

一同 「「葵ちゃんなら描きますよ!」」

ろく丸「……よろしい。ならばお祭りだ!!」

一同 「「え、いいんですか!?」」



女子キャラを描くことに幸せを感じる面子が揃っていたのが運の尽きです(笑)
でもほら、製品を作る上で主人公への愛ってとても大切なんですよ。
ユーザーが一番長く付き合っていく存在ですから。
では早速参りましょう!




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先鋒:原画担当、ろく丸
【夏空】のチビキャラは通常のキャラと同様、私がデザインしています。
デフォルメするのが結構好きなので描くときはノリノリです。
念のため言っておきますが、自分はキャラの性別問わず、描くときはいつも幸せを感じますよ。








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次鋒:彩色担当、佐倉たくと氏
夏に相応しい、水着姿の葵!
いつも恥ずかしがって肌の露出を拒む彼女のこんな姿は大変貴重です。
ぷにぷに感とピンキッシュな色使いが可愛らしいです。
ほらカガハル、お前の女神がビーチで微笑んでるよ?







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中堅:彩色担当、花邑まい氏
ss企画の題材合わせて花火、そして浴衣姿の葵!
アップにした髪型も似合います。うなじは大事です。
普段とはまた違う、しっとりとした雰囲気の葵もいいですね。
彼女と一緒に花火を満喫できるヤツは誰なんでしょうか……?






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副将:彩色統括、まろし氏
限定版パッケージ等でお馴染みのワンピース姿の葵!
爽やかなのに色っぽくて、見てるこっちが恥ずかしいです……。
ワンピースのデザインをしたのは私ですが、これを描いたまろしのほうがけしからん(笑)
こんな無防備に寝転んでたら『オオカミさん』が来るぞー!





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大将:夏空チームが誇るディレクター、一ジョー氏
トリに相応しい笑顔の葵!
左のコピーが世界観を如実に表していて、あの世界に引き込まれそうになります。
実はグラフィッカーとしての技術にも長けている一D。
絵も描けてスクリプトも打ててディレクションもできる、オールマイティーなお方!
ゲーム本編のグラフィック作業も所々手伝ってもらいました。
本当、頭が上がりません……。


はい。いかがでしたか?
突拍子もない企画でしたが、一人でも多くの人に興味を持っていただければ幸いです。
また、既にクリアした方にももう一度プレイしたいと思っていただけると嬉しいです。
それでは、今後も【夏空のモノローグ】をよろしくお願いします!

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はい、葵祭りですがなにか?(キリッ

……ということで突発的な企画でした(笑)
夏空はチームメンバー同士仲が良いので、
たまにこんな突発的な企画が発生するのです。


「○○やりたいねー」
「やろうかー」
「ねージョー、○○やっていいー?」
「いいよ(即断)」


ものすごく簡略化するとこんな感じですね。
え……いや、もちろんお仕事の時はきちんとシテマスヨ?
イヤダナァ、ウソジャナイデスヨ。


夏空ブログのメルフォにこんなん見たいぜ!
って送ったら、もしかしたらジョーが実現するかも……?
しれませんね(笑)

 
 

そうそう。
ろく丸も言っていましたが、
『ナツソラ』『夏空のモノローグ』のFullを
maoさんのライブにて聴いてきましたよ。

どちらも凄い良曲で感動してしまいました。
夏空ユーザーさんも来てくれてたりしたのかな???
もしかしたら、隣に座ってたかもしれませんね(笑)


 

おっと、そうだ。
昨日のANブログにてナイヴス君が土岐島高校の制服を見て、

(;゚ Д゚)?

ってなっているイラストが見られますよー。
なんだかんだと、【アーメン・ノワール】原画担当いけさんが
ジョーの無茶振りに反応してくれました。

なんか2週にわたる連続企画みたくなっていますが、
来週はついに制服を着込んだナイヴス君が見られるようです。
みんな、盛大に期待してやるんだ!(笑)

以上、スタッフコーナーでした~。

 
 

 さて!!!
ss企画へれっつごー!

今回のテーマは夏祭り。
科学部みんなでお祭りに行って楽しくないわけがない!
そんな夏の一夜を描いた今回のss。

西村の気合がはいりまくって、
いつもの3倍近い大ボリュームでお届けします!!(笑)
皆さん、どうぞ楽しんでくださいね。
それでは早速……夏空webss募集企画第1回作品、スタートです!


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【ss募集企画 第1回 光の華】

家を出た途端、夏の空気が身体を取り巻く。

それまでエアコンの効いた部屋にいた私は、その温度差に少し驚いてしまった。
まだ夏はこれからなのに、今からこの暑さでは困るな。
そんなことを考えつつ、カラコロと下駄を鳴らしながら、緩やかな坂道を下っていく。

見下ろす町は涼しげな白い光に照らされている。
夜空にはきれいな月がかかっていた。
今日は満月だったのだと、ふと思う。

遠くから微かに祭り囃子が聞こえてきて、
私は自然と笑みが浮かんでくる。
歩調が少しだけ早くなる。
浴衣が似合っているかどうか、少し不安だったけれど、それでも期待の方が大きかった。


7月11日。


今日は土岐島市をあげての夏祭りが開催される。
当然お祭り好きの部長さん率いる、
私たち科学部も夏祭りに向かうことになっていた。

カガハル:あ、おーい! 先ぱーい!
     こっちですよー!! 愛しのカガハルが待ってますよー!

浅浪  :こっちだこっちー。

集合場所の鳥居まで来ると、
カガハルくんと先生が私を見つけて声をかけてくれた。
木野瀬くんと篠原くんもそれぞれこちらに気付いたようで、
軽く手を挙げて挨拶してくれたり、そっぽを向いたりしている。

鳥居から続く参道はいつにない賑やかさで、
嬉しくなって、私は小走りに彼らの元に駆け寄っていく。

小川  :みんなも浴衣なんだね。

木野瀬 :んー……まあな。

浅浪  :祭りは雰囲気味わってなんぼじゃねえか。格好から入るのは大切だぜ?

木野瀬くんと先生はそんなことを言って笑う。

木野瀬 :その浴衣……去年と同じなんだな。

小川  :うん、気にいってたから。やっぱり新調した方がよかったのかな。

木野瀬 :いや……去年のヤツ、似合ってたから、今年も同じヤツだといいなって思ってた……。

木野瀬くんは小さくそう言って、私は少しうつむいた。
嬉しいような少し恥ずかしいような、なんだかむずがゆい気持ちになる。

浅浪  :んで、1年連中はなんでさっきから黙り込んでんだ?

先生が少し意地悪そうな口調でそんなことを言う。
つられて、私も改めてカガハルくんと篠原くんに向き直る。
2人ともなんだか驚いたような表情でこちらを見ていた。

小川  :あの……どうしたの? 2人とも。

篠原  :別に、なんでもありませんよ。
      『馬子にも衣装』って本当なんだなと思ってるところです。

小川  :まごにも……ひょっとして、褒めてくれてるの?

篠原  :まあ、一応……。

篠原くんはなぜか、少し不機嫌そうな声で言う。
その横でカガハルくんは肩を震わせていた。

カガハル:……可憐だ……。

小川  :えーと、あの?

カガハル:なんという美しさだ……! 日本神話かっ!!

日本神話……褒められているのか、けなされているのかさえわからない……。

篠原  :多分ですね。

篠原くんが面倒そうに口を挟んだ。

篠原  :祭りの賑やかな音に惹かれ、天の磐戸から出て、
     再び世界に光をもたらした天照大神のような美しさだ――という意味で
     『日本神話かっ!!』ということじゃないかと思います。


カガハルくんが勢いよくうなずいている。
……壮大な褒め方だなあ。

小川  :篠原くんはカガハルくんの言いたいことがよくわかるんだね。

カガハル:や、やめてくださいよ先輩!
      篠原が俺のことをわかってるなんて気持ち悪い!

篠原  :発情した犬みたいなものですからね。
      わかりやすいんですよ。

カガハル:はつじょ……なんだとこのやろー!

篠原  :事実じゃないか。

カガハル:せめて人間にしろよな!

篠原  :へえ、発情してるのは否定しないんだ。

カガハル:あーー! お前はどうしてそう、揚げ足ばっかり取るんだよ!!

いつの間にかケンカ腰で言い合っている2人に、
私は思わず笑ってしまう。

小川  :……部長さんはまだ来てないんですね。

ああ、そう言えば、と木野瀬くんが時計を見た。

木野瀬 :そろそろ来るんじゃないか。
      待たせたなしょくーん! とか言いながら。

浅浪  :そうそう、真打ちは遅れて来るものだーとか言ってな。
     木の上とかから登場するんだ。バカだから。


そんなことを言っていると――。


沢野井 :ふはははは!!
      待たせたなしょっくーーん!!



頭上から高らかな声が響いた。
声のする方を見上げれば、やはりというかなんというか。


沢野井 :土岐島高等学校、科学部部長!!
      沢野井宗介ただいま登場!!



部長さんが、木の枝に仁王立ちしていた。
白いサラシに青いハッピ、そして捩り鉢巻きという、今にもお神輿を担ぎ出しそうな出で立ち。
彫りの深い、整った顔立ちをしているせいか、
まるで何かを勘違いしている日本かぶれの外国の方のようだ。


沢野井 :ビバ!! ジャパニーズトラディショーーン!!


……まるで何かを勘違いしている日本かぶれの外国の方のようだ……。

道行く人たちも立ち止まり、部長さんを指さしてざわめきだした。
私たちは知り合いだと思われないよう、顔を背ける。

沢野井 :聞きたまえ!! 道行く人々よ!
     僕は生粋のサイエンティストだが! 
     神を祀ることを非科学的だと否定するような、野暮をするつもりはない!!
     祭りを大いに盛り上げるため!
     ここで1曲歌ってさしあげよう!!


どこから取り出したのか、彼はラジカセを肩に担ぎ、そのスイッチを入れる。

沢野井 :作詞作曲伴奏歌・沢野井宗介!!
     【『どんと来い土岐島音頭』――サイエンティストは危険な夏がお好き――】


……なぜか、頼まれもしていないリサイタルが始まろうとしていた。
あと、タイトルがすごくハイセンスだ……。

道行く皆さんは一様にぽかんと、口を開けて部長さんを見つめており、
私たちは視線を合わせないようにするのに必死だ。

浅浪  :よし、じゃあ出発するか。

「「「「はーい」」」」

と元気よく応え、私たちは歩き出す。

沢野井 :しょ、諸君……!? 待ちたまえ!! 待ちたまえよ!
     君たちの愛しのヒーロー沢野井宗介部長を置いてどこに行くのだね!?
     おお、もう前奏が終わる!
     なっつ~の~サイエンティストには~♪


部長さんの素人離れしたいい声が響き渡る中、私たちはその場をあとにした。

 

 

 露店から漏れる橙色の光が参道に満ちていた。
 さざめくような笑い声が空気に溶ける。
 人々の流れに乗って私たちも進む。

 小さな子供が親にお面を買ってもらっている。
 ソースのいい匂いや綿あめ、チョコバナナの甘い香りが鼻をくすぐる。

小川  :目移りしちゃうなあ。やっぱり楽しいね、お祭り。

木野瀬 :お前のことだから、目移りしてるのは食い物ばっかりだろ。

小川  :う……で、でもね? お祭りの食べ物は特別なんだよ、木野瀬くん。

カガハル:そうですよ! 特別なんですよ! 木野瀬先輩!!
     葵先輩の言う通りだ! あなたは何もわかっていない!

浅浪  :なあ、カガハル。
      おめーはほんとに自分の意見ってもんがねえな。

カガハル:俺の意見なら決まってます。葵先輩の言葉は神の言葉!

篠原  :だそうですが……どうですか? 小川先輩。

小川  :うーん……そんなに信頼されても気持ちに応えられないというか……。

カガハル:お、俺は間違ってることは間違ってると言える男ですよ!
      大丈夫です先輩! お買い得!

小川  :お、お買い得といわれてましても……。

浅浪  :……おめーは本当に自分の意見ってもんがねえな……。

篠原  :しかし、木野瀬先輩がいると便利ですよね。

木野瀬 :ん? 何がだ?

篠原  :だってほら、浴衣の先輩が歩くだけで、道行く人が避けていきますよ。

カガハル:ほんとだー。顔怖くて得することもあるんだ。

小川  :ふ、2人ともやめて!! 真実は時に人を傷つけるんだよ!?

木野瀬 :ああ、すごく……傷ついてるよ……小川……。



そんな会話を続けながら、歩いていると――。



沢野井 :待ち……待ちたまえ諸君!!



部長さんが追いついてきた。
しばらくの間は膝に手を突き、ぜーぜーと息を整えている。

沢野井 :な……なぜ!! 僕が気持ちよく歌っている最中に歩み去っていくのだね!

木野瀬 :いや部長、申し訳ない話ですが……ちょっと同類と見られたくなくて……。

沢野井 :本当に申し訳ない話だな!!
     僕はな諸君!! この夏祭りを最大限に楽しむための、
     とっておきのアイディーアをもってきたというのに!!


全員がアイコンタクトを取り、そして、部長さんに向き直る。

浅浪  :じゃあ多数決取るぞー。

先生の間延びした声に、全員がうなずいた。

浅浪  :沢野井のアイディーアを聞きたい人ー。

沢野井 :はい! はーい! はい!

挙手、約1名。元気なメガネの人だ。

浅浪  :じゃあ聞きたくない人ー。

部長さん以外の全員が無言で手を挙げた。

沢野井 :なぜだ……。

部長さんは芝居がかった動作で地面にひざまづいた。


沢野井 :ほわーい!!


道行く人々がビクリと肩を震わせ、
部長さんと私たちを大きく避けて歩いて行く。

篠原  :英語である必要性がどこにあるんですかね……。

篠原くんの言葉にゆっくりうなずいた。
ああ、ここだけ妙に空気が冷たい。

小川  :ぶ、部長さん。ほら、立ってください。は、恥ずかしいですよ。

沢野井 :一体何が恥ずかしいというんだね! 僕は素直に感情を表現しているだけだ!
     ほわーい!!

浅浪  :……あのな、沢野井。
     容姿だけは無駄に整ってるハッピ姿の男が、参道のど真ん中で
     膝ついて、ほわーい! とか叫んでんだぞ?
     これが恥じゃなくて何が恥なんだ?
     あと単純に他人様の迷惑なんだよ、てめえの行動は。

先生の言葉に私たち全員が力強くうなずいた。
部長さんは小学生のように口をとがらせて立ち上がる。

沢野井 :他人様の迷惑になるというなら仕方あるまい! だが!
     話くらい聞いてくれてもいいではないか!!
     僕は科学部の栄えある部長なのだぞ!?
     部長なのに……部長なのに……くっ!!

木野瀬 :……まあ、話を聞くくらいならいいですけど……。

カガハル:ちょ、き、木野瀬先輩!? 本気っすか!?

篠原  :木野瀬先輩が甘やかすから、部長がつけあがるんですよ?

木野瀬 :いや、でもな……いくら部長とは言え、話くらい聞いてやろうぜ。
     かわいそうだろ。
     ほら、部長泣いてるぞ?

小川  :本当だ。道の隅で体育座りして、部長さんが泣いている……。

篠原  :……十中八九、うそ泣きだと思いますよ?
     右手に目薬持ってるのが見えてますし。

浅浪  :演技の下手なやろうだ……。

体育座りの部長さんを見つめつつ、私たちは意見を交わし、
じゃんけんによって、私が代表して部長さんの言葉を聞くことになった。
本当に、どうして私は運がないのだろう。

小川  :あのー部長さん?
     一体どんなアイディーアを思いついたんですか?

背中越しに声をかけた途端――。

沢野井 :よくぞ聞いてくれた!! 小川葵くんっ!!

部長さんはオーバーリアクションで立ち上がると共に華麗なターンで
私に振り向いた。

沢野井 :そんなに聞きたいかい僕のアイディーアを!!

小川  :い、いえどちらかと言えば聞きたくな――。

沢野井 :聞きたまえ! 諸君!
     我々はこれより、
     サマー・フェスティバル・ウォーズを行う!!

小川  :サマー……ウォーズ?

沢野井 :違う!!
      サマー・フェスティバル・ウォーズだよ!! 小川葵くん!!
      フェスティバル重要だよ!
      フェ ・ ス ・ ティ ・ バ ・ ル!!

浅浪  :嫌な予感しかしねー……。

木野瀬 :あー……部長?
     一体何をするウォーズなんですか?


先生と木野瀬くんがとても気が進まない雰囲気で尋ねると、
部長さんは全く空気を読まずに笑って見せた。


沢野井 :簡単だよ諸君! 夏祭りで行われているイベント。
     射的! 金魚すくい! 紐クジ! 輪投げ!
     エトセトラエトセトラにおける科学部最強のお祭り男を決定する
     ウォーズを開催するのだよ!! しょっくーーん!!

小川  :あの、部長さん……私、女なんで、お祭り男はちょっと……。

沢野井 :これは失敬! 紳士の代表格たるこの僕としたことが、
     うっかり忘れていたよ!
     もちろん君が勝てばお祭り女の称号が与えられるぞ!!

お祭り女……特に嬉しくない称号だなあ……。

カガハル:はあ、付き合ってられないっすね、葵先輩。

小川  :あ、カガハルくん。

カガハル:さぁ行きましょう。部長に付き合う必要なんてありませんよ。

カガハルくんが私の手を取って歩き出す。

小川  :えーと、でもみんなは……。

カガハル:ふふ、彼らは部長と遊ぶでしょうから、ここからは2人で。

小川  :でも……。

カガハル:ふふふ、夏祭りはこれからです!
     そう、俺たちの恋の祭典はまだ始まったばかりなのですよ!!

小川  :は……はあ……。

浅浪  :……うまいこと言ったつもりなのか……あれで。

木野瀬 :とにかく、2人きりになりたくてしょうがないんでしょう。

篠原  :あれほど脈がないのに、まだなんとかなると思ってるあたり、
     不憫を通り越して呆れてしまいますね。

浅浪  :沢野井はバカだが、カガハルは恋愛バカだな。
     まあ、せめて俺達だけは生温かく見守ってやろうぜ。
     見てて面白いし。

後ろから聞こえてくる声を完全に無視してカガハルくんが
私に笑いかける。

沢野井 :話を最後まで聞きたまえカガハルくん!
     勝者には、僕が用意した秘密の特別観覧席で、
     小川葵くんと2人きりで花火を見る権利を得られるのだぞ!

ぴくり、とカガハルくんの耳が動いた。
彼は私に笑顔を向けたのち、
華麗にターンを決めると、部長さんの元へと舞い戻っていく。

カガハル:部長!!

沢野井 :カガハルくん!!

2人はがっしりと握手する。

浅浪  :なんだこの光景。

木野瀬 :……よし、俺も頑張ろう。

篠原  :あの……木野瀬先輩?

小川  :ちょ、ちょっと待ってください! 部長さん!

沢野井 :何か質問があるのかね! 小川葵くん!!

小川  :質問しかありません! 私の意志を無視して、
     こ、こんなことされても困ります!!
     大体私と花火を見るのが賞品なんてみんなも嬉しくないと思います!!

沢野井 :そうなのかねカガハルくん!!

カガハル:ふ、何をバカなことを……いいですか?
     葵先輩と2人きりで花火を見るということは!! 
     これすなわち、人生の勝者となることと同義です!!
     俺にとっちゃあ、世界の全てを手中に収めたと言っても過言じゃないですよ!!

沢野井 :と言っているが?

小川  :か、過言すぎます! ……カガハルくんは私をからかってるだけです!

カガハル:そんな……俺はこれほどまでに本気だというのに!

浅浪  :お前らー、通行人の邪魔だから道の隅でやれ、隅でー。

木野瀬 :射的は結構……得意だよな。
     金魚すくいだって負けるとは思えねえし……。
     そうだ、思い出せ俺。
     祭りのカズと呼ばれ露店のおっちゃんたちから恐れられた、
     幼き日の栄光を……。

篠原  :あの、木野瀬先輩……なぜ急にやる気を?

木野瀬 :え、いやその、別に……。

小川  :とにかく『サマー・フェスティバル・ウォーズ!!』には私は参加しません!
     そして賞品にもなりませんから!



沢野井 :ええい! 静まりたまえしょくーん!!



部長さんの大声にみんなは動きを止めた。

沢野井 :小川葵くん! もちろん君には別の賞品を用意しているぞ。

小川  :……どんな賞品でもやりませんよ? 人を賞品にするなんて、
     やっぱり失礼なお話だと思いますし。

沢野井 :ふふ……これを見ても同じことを言っていられるかな?

部長さんは懐から、一枚の金色に光る券を取り出した。

小川  :そ……それは……隣町の有名洋菓子店カトレアの
     超激レアスイーツ予約券!

沢野井 :君が勝ったなら、これを与えようじゃないか。

私は意味もなく無駄に、その場で1回転ターンをして、部長さんに駆け寄る。

小川  :部長さん!

沢野井 :小川葵くん!!

私たちはがっちりと握手を交わした。

浅浪  :おいおい小川、いいのかよ。
     お前が負けたら、賞品お前だぞ?

小川  :カトレアの激レア予約券であれば! 自らを賭ける意味はあります!!

浅浪  :……先生は、お前の将来がとっても心配だ……。

篠原  :もうなんでもいいですよ、さっさとすませましょう。くだらない。

篠原くんのうんざりした声に部長さんは大きくうなずいた。

沢野井 :よおし!! ではこれより科学部による科学部のための夏祭り企画!
     『サマー・フェスティバル・ウォーズ!!』を開催するぞ!!
     しょっくーーん!!

そんなわけで、夏祭りの情緒なんて全く無視して、
科学部最強のお祭り男(女)を決めるべく、運命の闘いの幕が上がった。

 

 

――射的にて

沢野井 :ふははははは!! 見よ! 昨晩徹夜して作った
     この沢野井製多弾倉ショットガンの勇姿を!!
     特殊技術で圧縮されたガスにより、鉄板にさえ穴を開ける
     すさまじい勢いで、木のコルク玉を発射できるのだ!!

店主  :お客さん。すまないけど、うちはマイ銃はダメなんだよ。

沢野井 :……なん、だと……?

カガハル:先輩と2人きりでデート、先輩と2人きりでデート……。

篠原  :邪念に溢れているな、カガハル。

カガハル:篠原うるさい!


小川  :超激レアスイーツ……超激レアスイーツ……。

浅浪  :小川、お前はほんとに甘いもんが絡むと性格が変わるよな。

小川  :スイーツは生きる理由です! 先生!

浅浪  :はぁ……お前も相当変わってるよなあ。


木野瀬 :発射角度、よし。風向き、よし。あとは狙うだけ……。

篠原  :……木野瀬先輩、必死ですね……。

木野瀬 :な、なな、何言ってんだ篠原、遊びだよ遊び!
     お前だって参加してるじゃねえか。

篠原  :僕は別に賞品に魅力を感じていませんので……あ、落ちた。

全員(篠原除く):えぇ!!

全員の驚きの声が夜空に響き渡った。

 

 

――金魚すくいにて

沢野井 :ふはははははは!! 見よ! これがこの日のために作り上げた苦心作!
     破れそうで破れない、ちょっとだけ破れる和紙で作り上げられた、
     『破れそうで破れない、ちょっとだけ破れる金魚すくいのなんかすくうヤツ』だ!!

篠原  :相変わらず思考が独創的ですね部長。
     独創的すぎて、最早人類とは思えません。

沢野井 :褒めても何もださないぞ? HAHAHA!!

木野瀬 :いや……多分篠原は褒める気はないですよ?

店主  :お客さん。うちはこっちで用意した道具以外使っちゃいけねーんだが……。

沢野井 :なん……だと……?


木野瀬 :射的はうまくいかなかったからな……今回はなんとか成功したいのに……
     金魚が……なぜか俺の周囲に集まってこない……。

沢野井 :金魚は人間の顔から発せられる、ある種の殺気のようなものを
     感じ取れるのかもしれない。
     ふむ……木野瀬くんの顔面の迫力から言えば無理からぬ話か……。

木野瀬 :部長?
     それ以上言ったら割と本気でぶちますよ?


木野瀬くんが部長さんを振り向いて言う。引きつった口元が、
いつもの顔にさらに恐ろしさをトッピングしている。


浅浪  :しかし地味に本気だな……木野瀬。
     そんなに小川と2人きりになりたいのか?

木野瀬 :べ、別になんでもいいじゃないですか!!

浅浪  :えーいいじゃん別によー。恥ずかしがんなよ。

木野瀬 :だから俺に構わないでくださいよ!
     せ、先生だってずいぶん必死みたいですけど?

浅浪  :はん! 高校生なんて雰囲気に飲まれて軽く一線超えやがったりするからな。
     若気の至りに突っ走りがちな若者どもから小川を守るべく、こうやって参加してんだよ。

カガハル:ふ……果たしてどうかな?

浅浪  :なんだよ、カガハル。言いがかりか?

カガハル:先生だって葵先輩を狙ってるかもしんねーじゃん!
     色々口実つけてさ、こういうのに限って2人きりにすると危ねーんだ。
     職権濫用反対!!
     ねえ、葵先輩! 大人って汚いですよねー。

小川  :激レアスイーツ……激レアスイーツ……っ!!

カガハル:き、聞いていらっしゃらない……。

木野瀬 :真剣そのものだな。


そして時は流れ……。


カガハル:先輩との素晴らしい一夜のため……燃えろ俺のピュアハート!!
     ……ああっ! また失敗かよ!!

篠原  :カガハル……お前みたいに年中発情して騒いでるようなヤツには、
     先輩どころか金魚も掴まらないんだな。

カガハル:うるせえよ篠原!! 見た目以上に難しいんだぞ!?
     ほら、お前もやってみろよ!

篠原  :あ、取れた。
     ……ええと、83匹目か。


全員(篠原除く):えぇええええ!!


店主  :あなたが神か……金魚すくいの。

篠原  :いえ、違いますから。


結局、今回も1位は篠原くん……。

 

 

――型抜きにて

カガハル:篠原、てめーには負けねえ!!

木野瀬 :まあなんだ。俺も一応……負けたくない。

沢野井 :僕もだ! ついに本気を出すときが来たようだな!!

浅浪  :お前……さっきからずっと、
     科学力満載の100%でやってたじゃねえか……。

小川  :激レアスイーツ……食べたいよぅ……。

篠原  :やれやれ、みんな負けず嫌いというか、子供というか。
     カガハル並というか。

カガハル:な、どういう意味だよ、篠原!!

浅浪  :そうだどういう意味だ篠原!! 先生、こんな侮辱初めてだぞ!

カガハル:せ、先生!?

木野瀬 :……どういう意味だ、篠原?

カガハル:木野瀬先輩も!?

沢野井 :僕は傷ついたぞ篠原くん!! 彼と比べられるとは不名誉甚だしい!!

カガハル:部長まで!? あんたにゃ言われたくねえよ!

小川  :……私も、失礼だと思う。篠原くん。

カガハル:せ、先輩!?
     ど、どっちがどっちに対して失礼なのか聞いてもいいっすか!?

沢野井 :とにかく! サマー・フェスティバル・ウォーズ!!
     最後の戦いは型抜きで勝負だ! しょっくーん!!

全員(沢野井除く):おー!!



小川  :あの、先生。型抜きってなんですか?

浅浪  :ああ、なんだお前、やったことねーのか。
     画鋲を使って、板に書いてある模様に沿って型を抜けば、
     板の難しさに合わせて賞金がもらえるという
     ギャンブル要素満載のシステムだ。
     ほれ、これが板と配当表。

屋台のおじさんから、先生がピンク色の板を受け取ってくれた。
私に渡されたのはハートの形の模様が彫られている。

私のハート形の配当金は200円だ。

浅浪  :この模様通りに抜き出せばいいってわけだな。

小川  :簡単に思えますけど……。

浅浪  :ま、やってみりゃわかるさ。
     しかし……連戦をこなしたせいで疲労が溜まってるのか?
     手元がさだまらねえぜ……。

木野瀬 :……いや、原因はその左手に持った缶ビールでは?

小川  :ち、違うよ木野瀬くん! 先生はハンデを……。
     学生である私たちが対等に戦えるように
     さりげなくハンデを負ってくれたんだよ。

篠原  :そうなんですか? 先生。

浅浪  :いや……普通に気持ちよくなってたっつーか……。

小川  :謙遜する先生も素敵だと思います。

カガハル:なーんーでーだー!!
     なんで先生に限って、そこまでポジティブになれるんですか!!

木野瀬 :小川の先生崇拝は、事実をねじ曲げるレベルだな。

浅浪  :そこまで尊敬されるとちょっと困っちまうよな。

カガハル:くぅう! 困るだと! 困ると言ったかこのやろう!!


そんな会話を続ける中――。
部長さんの画鋲が高速で動き、次々と切り抜かれた型が寸分の狂いもなくできあがっていく。
そして型ができあがるたびに、露店のおじさんの顔が青くなっていく……。


沢野井 :ふ……見たまえ諸君! この僕の勇姿を!!
     ちまちまとした作業感!!
     せせこましさ!!
     世界の科学者たるこの僕にぴったりの作業と言えよう!!

浅浪  :あのアホ、また無駄なところで無駄な才能を発揮させてやがるな……。

木野瀬 :どうにも緊張感のある作業だな、これ。

カガハル:ぶ、部長になど負けるかー!!
     俺だって手先の器用さには自信あるんだぞ!!


火が点いたように競い合う2人と、地道に作業を続ける私たち。
そして結果は――。


篠原  :どうやら僕が1番みたいですね。

カガハル・沢野井:ほわーい!!

浅浪  :お前ら、途中からスピード勝負になってただろ。
     ほとんどの型、ぼろぼろになってたぞ。

カガハル・沢野井:GYAAAAA!!

篠原  :バカですね……。

木野瀬 :同感。

小川  :あ、あははは……。


 

 

その後、様々な波瀾万丈の物語があり……。
私たちはみんなで、部長さんの言う、特別観覧席に向かっていた。

優勝者である篠原くんが賞品の受け取りを拒否して、
みんなで花火を見たいと言ってくれたからである。

私としてはほっとしたような、
自尊心を傷つけられたような、微妙な気分だ。
神社の裏手に回って、細い山道をみんなと話しながら歩いた。

私は、去年のことを思い出していた。
去年は先生と木野瀬くん、そして部長さんと一緒にお祭りに来た。
その時は確か、神社の境内で花火を見た。
今年は、カガハルくんと篠原くんがいる。

でも……来年はどうなるのだろうか。
そんなことを考えて、胸のあたりが少し痛くなった。

科学部は今年で廃部になることが決まっている。
それでも来年……私たちはまたお祭りに集まって、
笑い合いながらこうやって、夜の道を歩くことができるのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えているうちに……。

あれ、と胸中で呟く。

いつの間にか、暗闇にひとり取り残されていた。
どうやらぼんやりと歩いているうちに、みんなとはぐれてしまったようだ。

月の光が冴え冴えと降り注ぎ、虫は大合唱を繰り返している。
夜の森がそれほど恐ろしいとは思わなかったけれど、
やはり、みんなと一緒に花火を見たい。

そんなことを考えて、森の中を歩き回った。
そのうちに、木々のない広場のような場所に出た。

小川  :道を間違えたのかな……。

??? :そうだね、こちらには特別観覧席はないよ。

不意に声がした。
驚いて声の主を捜せば、そこにはひとりの男の人が立っている。

狐のお面をかぶった、浴衣姿の男性だ。

不思議だ。
確かについさっきまで、そこには誰もいなかったはずなのに。

??? :この道を戻って、最初の分かれ道を右に行くといい。

涼やかな声だった。
どこかで、その声を聞いたような気はしたのだけれど。
どこで聞いたのか、全く思い出せない。

??? :さあ、行くといい。
     今夜の花火は君にとって、とても素敵な思い出になるはずだからね。

優しく、同時にどこか寂しさを感じさせる。

小川  :あの。

私は思わず言っていた。

??? :なんだい。

小川  :道を教えていただいたお礼と言ってはなんですが、
     一緒に花火を見ませんか。
     部長さんが……いえ、知り合いが、
     観覧席は花火を見るのにとてもいい場所だと言っていました。

彼はしばらくの間黙っていた。
やがて、小さく首を振る。

??? :ありがとう。
     でもね……きっと僕には、そんな権利はないんだ。

どういう意味かと、尋ねようとしたその時。

空が赤く光った。
ついで、全身に響く大きな音。
花火が始まったのだ。

??? :行っておいで。みんな、君を待ってる。

次々と弾ける光に、地面に男性の影ができた。
私はしばらく迷ったのち、彼に頭を下げて、道を歩き始めた。

観覧席は意外とすぐそばにあった。
高台にある小さなお堂とその境内。
遮るモノのない、町を一望できる景色と、花火の煙が残る夜空が広がっている。
花火はちょうど、最初のオープニングを終了したようで、周囲は本来の闇を取り戻していた。

小川  :すみません。途中で道を間違えたみたいで……。

声をかけると、みんながこちらを振り返る。
驚いたような顔、それから、安心したような笑顔。

木野瀬 :小川。心配したぞ。

カガハル:よかったー!
     今、みんなで捜しに行こうかって言ってたところなんですよ。

浅浪  :だから言っただろ? こういうときはむやみに捜しに行かずに、
     目的地でじっと待ってた方がいいんだって。

小川  :心配かけて、ごめんなさい。

申し訳ないと思う反面、嬉しかった。
私のことを心配していくれる人が、私にはたくさんいる。

篠原  :最初の花火は、一緒に見られませんでしたね。

小川  :……うん、残念だった。

浅浪  :しょげるなよ。まだ始まったばっかりだぜ?
     これから充分楽しめばいいさ。

敷いたブルーシートの上に座って、先生が言う。

木野瀬 :おお、そうだ。
     俺、弁当作ってきてたんだった。

カガハル:さっきの屋台で飲み物とか食べ物とか、色々買っておきましたよ!

ブルーシートの上には、次々と食べ物が並べられていく。

カガハル:うおっ……このいなり寿司、めちゃくちゃうめえ!!

木野瀬 :そうか? 特別何もしてないんだけどな。

浅浪  :ふむ……いや、こりゃ……味付けのバランスがいいんだな。
     大したもんだ。

篠原  :文武両道。気遣いもできて料理もできる。
     本当に顔さえ怖くなければ完璧な人なのに……。

木野瀬 :頼むから! 俺の前で顔の話をするのはやめてくれないか!

沢野井 :諸君! 食事もよいが花火もよいぞ!
     特に! 次の花火はオススメだ! 少し準備に時間がかかっているようだがな。

小川  :オススメ? 次の花火がどんなものか知ってるんですか?

沢野井 :当然だ、僕が作ったものだからな。




部長さんの言葉に、みんなが一斉に振り返る。




カガハル:ちょ、そ、それどういうことですか!!

木野瀬 :ち、ちょっと待ってください!
     花火って誰でも作っていいもんじゃないでしょう!

沢野井 :火薬類取扱保安責任者の資格と煙火消費保安手帳なら持っているが?

浅浪  :持っているが? ってお前……マジで何者なんだよ。

篠原  :あー……ちなみに、どのような花火なんですか?

沢野井 :拡散式殲滅型多弾頭花火!!
     その名も、【スターメイカー】だ!!




部長さんが言い終わった直後――。




夜空に、笛の鳴るような音がした。
顔を上げれば、小さな火の玉が空の高いところに向かってのぼり。
やがて、弾けた。

それは空一面に広がる大きな大きな花火だった。
光が破裂すると、そこから広がる光の粒がまた破裂して、
次々と夜空を染めていく。
光の粒はキラキラと夜空に留まり、ゆっくりゆっくりと消えていく。
それはスターメイカーの名に恥じず、
夜空の星を幾万倍にも増やしていくような気がした。

みんな、息をするのも忘れて空を見上げた。
すぐにまた、次の花火が上がった。
何発も何発も。
そのたびに身体を震わせる大きな音がして、光が広がっては消えていく。

きれいだなあと、誰かが呟く。
私は誰が言ったのだろうと、視線を降ろしてみんなの横顔を覗いた。
花火が弾けるたびに、赤に青に、光はみんなの姿を染めた。

なんだかとても幸せな気持ちになる。
今この瞬間、私は幸せだ。

そして同時に、少しだけ寂しさも感じた。
きっと今感じるこの美しい瞬間も、夜に散る花火と同じように、
やがては過去に埋もれて消えていく。

花火から連想されたそんな想いが、胸に広がっていく。

夜を彩る花火は、やはり消え行くからこそ美しいのだろう。

そうとわかってはいながらも、私はどうしても考えずにはいられなかった。
この美しい瞬間が、ずっと続けばいいのにと。
いつの間にか強く強く祈っていた。

木野瀬 :なあ。

ふと木野瀬くんの声がした。
彼は私を見て、笑っている。
普段からは考えられないようなとても優しい笑みは、
私にはむしろ、彼の本質を語っているように思えた。

木野瀬 :花火、きれいだな。

彼の言葉に笑顔でうなずき、私は再び夜空を見上げる。
手を伸ばせば届きそうなところで、光の華が咲いては散っていく。

狐のお面をかぶった、あの人の言った通りだ。

今夜のこの空は。

きっと忘れられない、素敵な思い出になるだろうと、
私は思った。


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第一回ss募集企画作品はいかがでしたか?

ずっと、この時がつづけばいいのに――。
幸せなその時間に誰もが思ってしまう、小さな願望。
叶うことなく、過ぎ行く時間。
一瞬の美を放ち、消えていく花火。
それぞれの儚さとあわさり、少しせつなく感じますね。

――以上が、第一回ssでした!
素敵な提案をしてくれた皆さん、ありがとうございました!


そして!!
まだまだ、いきますよ!!
続いて来週掲載、ss企画第二回を飾る作品を発表したいと思います!

ss企画第二回を飾る作品は…………っ!
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提案してくれたのはPN『あすなろ』さん、他多数の方々です。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「なんてこった……こんなところで、先輩と出会うなんて……」

ゲーム本編では思い出話として登場した、
『科学部の合宿』をお送りいたします!

熾烈を極めるアヒルさんボート対決、枕投げ戦争。

そして。

混浴温泉で起きた、『カガハル人生の一大イベント』とは……。

乞う御期待です!!

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




ss企画第二回は『夏合宿』。
今回のssは科学部で行われた合宿の様子を、描きます。

ゲーム本編中でちらほらと話題にあがる、この合宿。
多くの方から、『気になる!!』というメールをいただきましたので、
こちらの話を選ばせていただきました。

次回も、ボリューム満点!
お楽しみに!



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以上、ssコーナーでした!

ところで、
皆さんは今年の夏は花火とか行きましたか?
ジョーは残念ながら行けてないのです……。

まあ、地元の茨城では秋中頃まで
花火大会を開催してくれるので、
ジョーはそちらでまたーりと花火を鑑賞するつもりです。
……休みがとれれば、ですが(笑)

『素敵な思い出』

皆さんの持つその響きの片隅にでも、
【夏空のモノローグ】という作品が含まれたらいいなあと、
思いつつ、今日はこの辺で終わらせていただこうかと。





……あ、今日はジョーが徒然語るのは無しです。
ボリュームが多いからね(笑)


さて、今週のブログはここまで!
それではまた次回、皆様とお会いできることを願いまして――。


―ジョーでした。
 

 

 

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