ARMEN NOIR No.45 May 11,2012

こんにちは。
【アーメン・ノワール】原画担当、デザインファクトリーのいけです。
ANブログ、告知の通り本日が最終回!
……最終回だからとはりきったらとても長くなってしまいましたが、
小休憩を挟みつつ読んでいただければ嬉しいです。
そしてお待ちかね、連載SSの後半もご用意していますので
最後までどうぞお楽しみください。

それでは、ANブログスタート!



■ANブログについて

さっそく本題へ……と、その前に。
本日で更新終了のこのブログについて少し触れておきますね。

・「アーメン・ノワール」の記事はどこで読めるの?
 ブログ更新終了後、ANの記事は後日【更新終了タイトル】カテゴリーに移動しますので
 そちらへいけばいつでも読むことができます。
 
・今後はAN関連の記事は更新されないの?

 ブログの定期更新は終了となりますが、今後もAN関連に動きがあれば
 ワリコミ記事にてお知らせいたします。

・ブログ終了後、ANへの感想などのメールはスタッフに届きますか?
 届きますのでご安心ください。
 ご意見ご感想ご要望などなど、よろしかったらメールフォームへぜひお送りください。お待ちしています。

以上、よろしくお願いします。
 


■【ARMEN NOIR portable】発売中!


4/12に発売されました【ARMEN NOIR portable】、お楽しみいただけていますか?
PS2版に大幅なシナリオとCGを追加して移植されました本タイトル、
じっくりプレイしてANの世界に浸ってください!
購入を迷っている方は、判断材料に公式サイトやANブログの過去の記事をぜひご覧ください。
また、公式サイトの「SPECIAL」にてPSP専用のカスタムテーマ配信も
しておりますのでどうぞお使いくださいね。



■各種グッズのご紹介

【ARMEN NOIR portable】からANの世界に入られたユーザーさんもいらっしゃるかと思いますので、
ここでAN関連のグッズを簡単にご紹介いたします。
まだ入手していないものがありましたら、この機会にいかがですか?

・『アーメン・ノワール ドラマCD』
PS2版アーメン・ノワール発売後に出ましたドラマCDです。
ドラマ本編はシリアスとなっておりますが、殺伐としたシリアスさではなく、
所々にドキッとするシーンがあったりつい笑ってしまうようなシーンがあります。
さらに、Reyさんが歌うOP&ED曲のフルバージョンも収録。
内容についてはこちらのブログをご参照下さい。

・缶バッチガチャガチャ
ステラワース様の店頭ガチャガチャコーナーにて、
ANのちびキャライラストを使った缶バッチが販売中です。
まだゲットしていない方は今すぐステラワース様まで!
全7種類、ぜひコンプリートしてくださいませ。
ANスタッフが実際にガチャガチャをまわしたレポートもありますので参考にどうぞ!
詳細はこちら→http://www.stellaworth.co.jp/top/shopinfo.html#kan

・クリアファイル
ARMEN NOIR portable通常版パッケージのイラストを使用したクリアファイルが登場!
裏面はPS2限定版パッケージのイラストになっています。
アニメイト通信販売のサイトにグッズの写真など詳しい情報が載っていますので、
気になる方は是非チェックしてみて下さい。
これらのグッズのお申し込み、お問い合わせはこちらまで↓
 
「アニメイト通信販売」サイト
http://www.animate-shop.jp/

※上記各種グッズについてのお問い合わせは、販売されている各社様へお願いいたします。
  弊社ユーザーサポート・ブログ宛てメールでのお問い合わせはご遠慮ください。



■開発裏話その3


裏話第三回はシナリオからバトンタッチ、グラフィックのお話です。
どのキャラクターも描くのがとても楽しく、全力投球で作業しました。
せっかくのCG班なので開発時に描いた画像をメインにお話していきましょう。
ここでしか見られない画像ばっかり、かも。それではどうぞ!

※以下はネタバレを多く含むため、未プレイの方はご注意ください※


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【AN移植版、開発決定!その時CG班は】

【ARMEN NOIR portable】開発決定の知らせを聞いたCG班は、
ひとしきり喜んだ後そそくさとテキストや落書きを書きためていました。
何せ大容量の追加要素、PS2版を踏まえて今回どんなものを描きたいかを
サイトウDとライターの望月さんに伝えるため、思いついたものを片っ端からメモしていったんですね。
その一部がこちら↓
 

anfin_01.jpg


1…私服姿でナイヴスと手をつないでデートするシチュエーション。

2…ノワールが「ずっと一緒にいたい!」と思い切りわがままを言って、エルがそれをなだめるの図。

3…ソードとの密着イラストの案出し。この構図は実際にはクリムソンに使われましたね。


4…ドーナツを貪っているノワールにレインが「太るぞ」と嫌味を言いながら頬を挟んでます。

こういった断片的なものを書き出し、サイトウDと望月さんに提出しました。
基本的にどんな恋愛シチュエーションを入れるか、どんな物語にするかはお二人が決定しますが、
提案したもののいくつかが採用していただけました。


【グラフィックの下準備】

今回は「絶望の中にある一筋の希望」を皆さんにお届けすることが最重要項目でしたので、
それを絵で感じていただくには何が必要かを探すことにしました。
その習作として描いたものがこちら↓
 

anfin_02.jpg

 

 anfin_03s.jpg


今回はキャラクターの幸せな姿や甘めのCGを描くことは決まっていたので、
これまでのシャープな線を少し柔らかめに描いたら雰囲気もやわらぎ、それらを表現しやすくなるのでは……
という考えに至り、髪の毛やキャラクターの表情を柔らかく描くことを第一に
【ARMEN NOIR portable】に相応しい線画を模索しました。
塗りも同じようにシャープさを強調するより、いかに幸せな雰囲気を出すかに重点を置いています。
ここでグラフィックの方向性を決めて、本格的に作業に臨みました。



【新キャラクターのデザインなど】

追加要素のひとつとして、キャラクターも増えることになりました。
つまりキャラクターデザイン、立ち絵の作成作業の発生です。

今回新規で描き起すことになったヴァルチャー、ガルドは
設定から見ても格好良さが伝わってくるキャラクターだったので、
デザインもそこを前面に押し出して考えたのですが……
 

anfin_04.jpg


完成して並べた時、周りからいただいた感想は「渋っ!」でした。
おまけでアルコルさんも並べましたが、今見てみると三人とも胸元強調で大人の余裕が伺えますね。
ガルドのドッグタグはサイトウDからの提案で、作中でも触れられていますが
これの設定を聞いてからは彼に仲間思いの強面キャラクターという印象がつきました。

ちなみにサイトウDからのヴァルチャーに対するデザインの注文がありまして、
それが以下の三つになります。

・エクリプスより身長が高い
・エクリプスより巨乳(かなりでかい)
・エクリプスより服の露出度が高い


……なぜこの注文がついたのかはサイトウDのみぞ知るといったところですが、
とりあえず上記三つを取り入れて出した案がこれ↓
 

anfin_05.jpg


バウンティアと言う組織に属する者を強調するか、
ただ者ではないことを強調するかでこの二つのデザインが出たのですが
これまでのキャラクターと違う方向でいこう、ということで今のデザインに落ち着きました。
こうしてアーメン・ノワールにまた一人、男に劣らず屈強な女性キャラが生まれたのでした。


【イベントCGあれこれ】

今回特に奮闘したのはここですね。
追加シナリオを読んでみて、この糖度の高いシナリオに負けてたまるか、CG班もやるぞ!と、
対抗心を燃やしつつ作業していました。シナリオとCGという異なった分野ながら、
ちょっとした競い合いがあったのもいい思い出です。
その後にキャラクターのボイスを聞き、双方声優さんの演技に負けを認めた結果となりましたが。(笑)

さて、イベントCGが指定されたシーンを読むと描きたい構図が複数出てくることが多く、
その一度きりしかないシーンにどの構図を選んだらベストか悩むことがしばしば。

 

anfin_06.jpg


上はソード添い寝CGの構図です。添い寝はそれほどパターンの多くないものですが、
それでも腕枕の有無やどうやってキャラ同士が密着しているかなど
細かい部分での取捨選択が迫られます。そして最終的にできあがったのは……
 

anfin_07.jpg


こちら。
塗り担当の諫山さんによる仕上げで色気ある添い寝CGになったのではないでしょうか。
実はこの添い寝、シチュエーション的に色気漂うものより可愛らしいものにしようとしたつもりが
出来上がってみたら何と言うか……こういう絵になってたんです!
そういった予想外の出来事が起きたりしながらCG作業は進んでいきました。
ついでに私は線画を塗ってもらうとき、念のためラフも一緒に渡すのですが、
この添い寝CGのラフを見た諫山さんがびっくりしたようで……なぜか聞いてみると
 

anfin_08.jpg



「服着てるのに筋肉のラインががっつり出てる上に影までついてるので
 塗りもこうしろってことかと思いました」

とのこと。本格的に塗りに入る前に止めていなければソードさんが危うくガチムチキャラになるところでした。

構図つながりの話で、レインの追加EDのCGは指定を読んで下のような構図を描いていたのですが↓
 

anfin_09.jpg


画面上に二人を入れるにはいささか難しかったのでキャラクターの体勢ごと変更し、
ゲームで使用されている構図になりました。
見返してみるとEDのCGとして、あの密着度の高い構図に決めて良かったです。

そしてここで作業の副産物であるの落書きを公開。
ナイヴスの追加CGでノワールが下からナイヴスの胸を触るものがありましたよね。
あれはよくよく考えるとこんな感じになるのかなと↓
 

anfin_10.jpg


下から見つめられたら、こう、何とも言えない気持ちになるのかなとか。はい。
ナイヴスの気持ちも知らずに脚に手とか置いてしまうノワールです。


今回待望の移植版ということで
ユーザーさんに喜んでいただけるような追加グラフィック制作をすべく
試行錯誤を繰り返しながらCGを作り上げていきました。
その一枚一枚に悔いのないよう全力で取り組んだつもりです。
私も諫山さんも、キャラクターたちに幸せになってほしいという一心で完成させましたので、
それが少しでも皆さんに伝わっていればとても嬉しいです。


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以上、開発裏話でした。
とても長く画像の多いお話になってしまいましたが、最終回ということでどうぞご容赦ください!
なお、PS2版のブログで行った開発裏話もありますので興味のある方はそちらもどうぞ。
その1その2その3その4



■帰ってきた連載企画

先週から2回にわけての企画、連載(前後編)SS・発売後バージョン!!
発売後バージョンなので【ARMEN NOIR portable】追加EDの後日談となります。
これからプレイされる方、購入検討中の方など追加EDをまだご覧になっていないユーザーさんは
お気を付けください。

ちなみに発売前の連載SS企画はこちら→第一回第二回

それでは早速どうぞ!

※【ARMEN NOIR portable】追加ED後のネタバレが含まれているため、
  ご注意ください※


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happiness   

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エル
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「エル、いい?」
「はい。先ほどからどうぞと言っていますが」
「…………」
「ノワール?」
「……緊張する。あと30秒待って」
「はあ。構いませんが」
「………………じゃあ、いくね」
「はい。どうぞ」

ガチッ

「っ……!」
「あ、ご、ごめんなさい、痛かった!?」
「痛くはないのですが、一応触感があるので声が出ました。
 では、中身を注入してください。シリンダーを押せばそれで完了です」
「わ、わかった……3カウントで行くね」
「……別にカウントする必要はないと思うのですが」
「3・2・1……」
「…………ぁ……!」
「どうかした!?」
「……あの、その中身、冷蔵庫で冷やしたりしました?」
「うん。ここ空調がないから、傷んだら大変だと思ってクーラーボックスに……
 駄目だった?」
「真空パックなので傷みはしないと思います。冷たかったです」
「えっ……ご、ごめん」
「驚いただけなので気にしないでください。
 オレの糖分補給に、貴女の手を煩わせて申し訳ありません」

そう言ったエルは立ち上がると、前に流していた青い髪を背に戻した。
うなじの位置にある接続口が見えなくなる。
ノワールは手にしていたシリンジを下ろすと、息を吐いた。

「エルは、電力は自立稼働できても、糖分は外部から補充しなくてはいけないから大変だね。
 しかも、差し込み口が背中だから」
「そうですね、少々自分ではやりにくい場所です。
 週に一度とは言え、貴女の手を煩わせて申し訳ありません、ノワール。
 慣れれば自分でもできるようになるとは思うのですが」
「ううん、このくらい私にやらせて。
 他に、エルの体を維持するために必要なことはある?」
「5年以内に発生する事項としてはありませんね。
 5年ほど経過したら、造血ユニットをメンテナンスする必要があるようですが」
「そう。それだけでいいんだね、良かった」

ノワールはシリンジをテーブルに置き、スツールに腰を下ろした。
エルを見つめ、笑う。

「あのね、エル。……この糖分補給って、エルにとっては面倒で大変だと思うけど
 私がエルにしてあげられることがあって、すごく嬉しい。
 本当はもっとできることがあればいいんだけど、私はエンジニアじゃないから
 何も役に立たなくて……」

その言葉に目を見開いたエルは、やがて微笑んでノワールの前に跪いた。

「役に立たない、なんて言わないでください。
 貴女がいたからこそ、オレもここにいるのですから」

そして、ノワールの手を取ってその甲に口づけた。

「……エル」
「ナスカ。愛しています」
「……うん。知ってる……」

微笑んだノワールは、エルに手を伸ばす。
色の白い額にキスして、そのまま抱きしめた。

「エル、私、たくさん勉強するね。
 それで、少しでもエルの調整や修理のお手伝いができるように」
「……ノワール……」
「頑張るから」
 
エルの顔を両手で包みこみ、ノワールは少し恥ずかしそうに笑う。

「……エル、大好き。ずっと一緒にいようね。……一緒にいてね」

エルもまたノワールに微笑んで、ノワールを抱き返す。
そっと、互いの額を寄せあった。

「はい、ナスカ。……貴女とオレの、約束です」



END



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ソード
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「……ナスカ」
「ソード……トラヴィス?」

朝。

ノワールはソードに抱き締められて目が覚めた。
何度か目をしばたたかせ、覆いかぶさるように自分を抱きしめているソードの胸をそっと押し返す。

「おはよう。……どうしたの?」
「…………」

ソードは黙ってノワールを見つめている。その眼差しはいつもより深い気がするのに、意図が読めない。
ノワールは顔を擦りながらベッドの上で身を起こした。

ソードはベッドサイドに膝をついているので、身を起こすとノワールの方が視線が高い。
何か言いたげな、妙に深刻な顔をしているソードに、ノワールは首をかしげた。

「何かあったの、ト……あ!」

そしてそのことに気付き、ノワールがさっと青ざめる。

「まさか……」
「…………」

ソードは、エプロン姿だった。
先日ノワールとお揃いで購入した、水色の地に子犬のアップリケがついた
可愛らしいエプロンを身につけている。

ということは、つまり。

「トラヴィス……もしかして、家事を、しようとした……?」
「した」
「っ……!」

ノワールは慌てて立ち上がろうとする。
そのノワールを、ソードは再び抱きしめ押しとどめた。

「いや、今回は大丈夫だ。
 何も零してはいないし溢れさせてもいないし壊してもいない」
「じゃあ、火事は!?」
「問題ない。火を使っていないからな」
「……なら……一体、何をしたの……!?」
「サンドイッチを作ったんだ」

ソードはわずかに身を引いた。
その肩の向こうのテーブルの上に、確かにサンドイッチが乗った皿がトレイごと置かれている。

「おまえがよく眠っていたから、朝食くらいは用意しようと思って作ったんだが……
 その」
「その、何?」
「……味付けを忘れた」

ソードは深く息を吐き、立ち上がる。
テーブルの上のトレイを取り上げて、ノワールの方に差し出した。

「あまり色々すると、かえってお前に迷惑をかけると思って 
 最低限のことだけにとどめたんだ。
 だから、サンドイッチといってもハムとチーズを挟んだだけなんだが」
「ディップやバターを塗り忘れた?」
「そうだ。すっかり忘れていた。すまん」
「……なんだ、そんなこと」

ノワールはほっと息を吐き、安心したように微笑んだ。

「家の中が大変なことになってなくてよかった。
 トラヴィス、このサンドイッチひとつもらってもいい?」
「……まずいと思うんだが……」

ノワールはいささか不格好に切られたサンドイッチを手に取り、口に運ぶ。
ソードはそれを神妙な顔で見つめた。

「……大丈夫。おいしいよ、トラヴィス」
「本当か?」
「チーズとハムにちゃんと味があるから、これでも充分だと思う。
 ソードが味が薄いと思うなら、塩をふって食べたらいいんじゃないかな」

ノワールは立ち上がり、トレイをテーブルに置きなおした。
少し伸び始めた髪を一つにまとめて、ソードを振り向く。

「コーヒーを入れるから、朝ご飯にしよう。
 サンドイッチを作ってくれてありがとう、トラヴィス」
「…………」
「どうしたの?」
「……家事をやって褒められたのは初めてだ」
「そうだっけ?」
「ああ、そうだ」
「じゃあもう一度言うね。ありがとう、トラヴィス。すごく嬉しい」

にっこりと笑ったノワールに、ソードは口元を手で押さえた。
次第に頬が赤くなっていく。

「トラヴィス?」
「……こんなことで喜ぶのは元保護者として、年長者としてどうかと思うんだが」
「?」
「……おまえに褒めてもらえて、……嬉しい」
「……トラヴィス」

ノワールは息を呑み、そして再び笑った。
ソードに近寄ってぎゅっと抱きつく。

「トラヴィス、可愛い。アーロンダイトを持っている時とは別人みたい」
「……俺としてはひとつ失敗するたび、おまえを失望させてないか不安なんだが」
「失望なんてしない。トラヴィスの全部が大好き」

ソードは苦笑し、ノワールの頬に触れた。
ノワールはすぐに察して顔を上げる。

「……ナスカ、おはよう」
「おはよう……トラヴィス」

そして、今日初めてのキスを交わした。



END



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ゼクス
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「……………………。」
「……………………。」

目が合ったままの沈黙は30秒ほどで終了した。
ゼクスが比較的迅速に状況を把握したためである。

「……ナスカ」
「ごめんなさい」
「いや、ごめんなさいじゃなくて」
「ごめんなさい。駄目……?」
「…………」

毛布に包まって自分を見上げて来るノワールの姿に、ゼクスは言葉を切った。
これは、どうしたものだろうか?

ゼクスが仕事を終えて自室に引き上げると、ベッドの隅に毛布を頭から被ったノワールがうずくまっていた。
一瞬部屋を間違えたかと思ったゼクスだったが、
どう見てもここは住み慣れたゼクスの部屋であり、間違っているのはノワールの存在の方だ。
ゼクスは無言のままで広い室内を横切り、ノワールの前で足を止める。

「とりあえず、何があったか聞こうか」
「……ゼクスが、B級ホラー映画を観るのが好きってソードから聞いて」
「まあ、そうだな」
「だから私も観てみようと思って、そういう映画を探してきて、さっき部屋で観て」
「ほう」
「……そうしたら、一人で部屋にいるのが怖くなって」
「……おい」
「シャワーから真っ赤な水が出てきたらどうしようとか、ソファに座った足首を誰かに掴まれたらどうしようとか、
ベッドの下に斧を持った殺人鬼がいたらどうしようとか」
「駆除しろそんなもん! おまえの敵になるような殺人鬼なんざおらんだろーが!」
「だ、だって……」
「……まあいい。で? なぜ俺の部屋に来た。
 おまえがこういうときに行くのはソードの部屋じゃないのか」
「……ソードに言ったら怒られる。ひとりで寝ろって」
「だからって――――待て。おまえ今晩俺の部屋で寝る気か」
「駄目なの? ゼクスとは一緒に寝起きしてたこともあるから、良いと思ったんだけど」
「あれは緊急避難だろうが。それと同列で考えるな!」

う、と言葉に詰まったノワールは、ゼクスを見上げたまま恐る恐る口を開く。

「……ここにいたら、駄目……?」

その声のあまりの頼りなさに、ゼクスは再び沈黙した。
やがて、深く息を吐く。

「……わかった。今日はそこで寝てけ。
 しかしソードにゃ黙ってろよ、俺が斬られる」
「……!」
 
安心したのか、ノワールは顔を輝かせた。
そのまま毛布をすっぽりとかぶってほっと息を吐く。

「ありがとう、ゼクス。出ていけって言われるかと思った」
「そう言いたいが、そういうわけにもいかんだろう。
 おまえが俺の趣味に興味を持った結果ならやむをえん、責任は取るさ。 
 ……そういやおまえ、ネロはどうした?」
「ネロ? ……もう寝るだけだから、部屋に置いてきたけど……」
「昔はなんかあるとネロに籠ってただろうが。なんで今日に限って俺の毛布なんだ」
「あれ……本当だ。どうしてだろう」

首をかしげたノワールに苦笑し、ゼクスはアシュラと上着を脱いでソファに投げた。
カウンターテーブルの上のブランデーの瓶を手にとって、グラスを出す。

「ゼクス、まだ寝ないの?」
「一杯ひっかけてからな。おまえそこで寝てろ、俺は今夜ソファを使うから」
「………………。ゼクス、一緒に寝」
「寝ない。それは譲らん」
「………………」
「あのな、さすがにおまえも理解してると思うが、親子でも恋人同士でもない男女が
 同じベッドで寝るのは問題行動だぞ」
「………………。
 じゃあ、恋人同士だったらいいの?」

ゴンッ。

「ゼクス!? ブランデーのボトルが」
「手が滑った。床に落としたが割れてないから気にすんな。
 今気にしなきゃいけないことはもっと別のことだ。ノワール、おまえな」

と。その時。

シュッ

ゼクスの私室のドアが左右に開いた。

「ゼクス。こんな時間に申し訳ありません。急ぎの用件なので失礼します。
 先ほどからノワールが部屋にいないと、ソードが――――」
「な」

部屋に入ろうとしたエルは、言葉を切って立ち止まった。

ゼクスのベッドの中のノワールと、上着を脱いでブランデーグラスを片手にしたゼクス。
彫像のようになったエルを前に、ゼクスは息を吐く。

「おい、エル。おまえ変な誤解するなよ。わかってるだろうがこれは」
「状況は把握しました。では、ソードとクーロンに報告してきます」
「待て。どう報告する気だ」
「ノワールはゼクスのベッドにいると伝えます」
「……あのな、コイツが一人で寝たがらないタチなのはおまえも知ってるだろう!
 それにクーロンに言う必要がどこにある?
 わざわざ状況をややこしくしようとするな!」
「ややこしくしようとしているつもりはありません。
 同じバウンティアに属するハンターとして見たことをそのまま伝えるだけです。
 何か問題でも?」
「問題がないとでもいう気か! いいからソードは適当に誤魔化しとけ!」
「拒否します。オレはもう誰の命令も受けません。では」
「待っ……!」

シュッ

部屋を出て行ったエルに、ゼクスは眩暈を抑えるように額を抑えた。
ノワールは心配そうな顔でゼクスを見上げる。

「ゼクス、ごめんなさい。ソードには私が謝るから」
「……謝る必要はないが事情説明をしてくれるか」
「了解した」
「まったく……エルも随分我が強くなったもんだ。俺でも時々持て余すぞ」
 
ゼクスはブランデーボトルを拾い上げると、ノワールに手を差し伸べた。

「ゼクス?」
「すぐにソードが来るだろう。ついでにクーロンもな。
 だからせめて俺のベッドから出ててくれ。ソファにでも座ってろ」
「了解した」
 
ノワールは差し伸べられたゼクスの手をとると、不意に笑った。

「どうした?」
「なんだか、少し楽しいなって」
「俺が困ってるのがか?」
「それもあるけど」
「あのな……」
「どう言えばいいのかな……
 こうやって当たり前にみんながいるのが、いいなって」
 
ゼクスは苦笑し、ノワールの手を握り返してベッドから立たせる。
そうしてノワールの頭を大きな手で撫でた。

「そうだな、俺もそれは思う。バウンティアもずいぶん様変わりしたもんだ」
「……様変わりしたかな?」
「したな。雰囲気が変わった。悪いことじゃないさ。
 ―――――――って、おまえ」
「何?」

ベッドから立ち上がったノワールを見て、ゼクスは絶句した。

「……なんでパジャマの上だけなんだ。下はどうした!?」
「ソードとはんぶんこしてるから、下はソードが使ってる」
「半分……!?
 というか生脚で俺の部屋まで歩いてくるな! 他の職員に見つかったらどうする!」
「他の職員? 何人か会ったけど。
 ゼクスは部屋に戻ってる?って聞きながら来たから」
「……お、おまえ、なあ……俺の立場をどう考えて……」

その時かすかに複数の足音が聞こえてきた。
おそらく、ソードとエルとクーロンだろう。ゼクスは今度こそ頭を抱える。

「あ―……もう、なるようになれだな、これは。覚悟を決めるか」
「……ゼクス、私が部屋に来たせいで困ってる?
 もう来ないほうがいい?」

不安げに自分を覗き込んできたノワールにゼクスは一瞬黙り、
やがて、柔らかな笑みを浮かべた。

「構わんさ。俺がソードに叱られりゃ済む話だ。
 それにおまえのその格好はソードにも責任の一端はある。
 今夜は保護者としての奴について、徹底的に討論するとしよう。
 だから、気にするな。おまえが来たいときに来い」

ゼクスの言葉にノワールの顔が輝いた。嬉しそうに笑う。

「ありがとう、ゼクス」
「どういたしまして。……ああ、ヤツラもうそこまで来たな。
 おまえ、ネロ召喚して着とけ。いくらなんでも目の毒だ」
「了解した」
「それじゃ奴らにも酒でも出してやるか。
 どうせ今夜はまともに寝られんだろうしな」

シュッ

「失礼します、ゼクス」
「社長、ノワール連れ込んだってマジですか」

そして―――騒がしい夜が、始まる。



END.



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前回に引き続き、ほのぼの甘いお話でしたね。
これまでにブログ上で書いたSSは甘いものばかりですので、ぜひ読み返して堪能してください!
公式サイトのSSもよろしくお願いいたします。

以上、連載SSでした。
次はお土産コーナーでおなじみ、諫山さんにバトンタッチ!



■お土産コーナー


こんにちは!グラフィック担当・デザインファクトリーの諫山です。
ANブログ最終回ということで、今回はこんなお土産をご用意いたしました!

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anfin_icon04.gif anfin_icon05.gif anfin_icon06.gif

 anfin_icon07.gif anfin_icon08.gif anfin_icon09.gif


目パチアイコン!
名前そのままですが、
ANキャラ達が画面の向こう側の皆様に笑いかけてくれるアイコンです。
個人的に楽しむのも良し、ブログ等のプロフィールに貼るも良し、
お好きなようにお使いくださいませ。

ちなみに試作品のアイコンがこちら。

anfin_icon10.gif


まるで恋する乙女のようなクリムソン。
試しに作ったものですが、なかなかの破壊力です。
ちょっと可愛い先生が好きな方へ…どうぞお持ち帰りください。

そして、お土産は目パチアイコンだけではございません!
なんと蔵出しの描き下ろしの壁紙もご用意させていただきました!
盛大なネタバレ壁紙となりますので、PS2版もしくはPSP版をフルコンプした方のみお持ち帰りください。

anfin_03s.jpg


実はこのイラスト、PSP版作業に入る何ヶ月か前にいけさんがANスタッフ宛に送った物で、
これを見た瞬間、私の胸はザワつきました。○○を生かしたかっこいい構図…!そしてどこか色気の漂う二人…!
「今すぐこれは表に出すべきです、そうだポスターにしましょう…!」と、恥ずかしながら
息荒くいけさんに迫りましたが「でも○○が、ネタバレだから…」となかなか表に出せませんでした。
今ここで出さなければ…次はいつになるか分からない!と使命感にかられまして、
壁紙としてお披露目させていただきます。是非是非、お持ち帰りくださいませ!

そしてついに最終回を迎えたANブログ、
皆様が少しでもANに興味を持っていただけるよう
スタッフ一同頑張ってまいりましたが、楽しめていただけたでしょうか?

たくさんのメールありがとうございました!
一通一通大切に読んでおりますが、
どれも温かいメールばかりで、皆様のANに対する熱い気持ちがヒシヒシと伝わり、
皆様に愛される作品になれたんだなと嬉しく思い、そして感謝しております。

ブログは今回で終わってしまいますが、
また違った形でお会いできることを祈って…ARMEN!


諫山さん、有り難うございました!
この目パチアイコン、試作段階だと全員テレ顔で別の意味で破壊力がすごかったという……
平均20歳越えの男性陣がいっせいに頬を赤らめてこちらを見る様はある意味圧巻でした。(笑)

これまで壁紙やツイッターアイコンなど色々なお土産をご用意させていただきました。
ブログ全体を通すと沢山の数がありますので、ぜひお気に入りのものを探してご使用くださいね。
以上、お土産コーナーでした。




■最後に

さてさて不定期ながら更新を続けてきましたANブログ、ついにお開きの時間です。
最後にアーメン・ノワールの生みの親にしてディレクター、
サイトウDから締めのコメントです!

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皆さんこんにちは。
本作のディレクターを務めましたサイトウです。
ANPSP楽しんで頂けておりますでしょうか。
えー……
急にコメントを求められ、今とってもテンパっております。
締めのコメントということですが
そうですね……苦手なんですよねコメント。
なので何の役にも立たないトリビアを一つ。
 
イケメン苦労人ナイヴスのCAはヤタガラスと言うのですが
このヤタガラスという架空の生き物をシンボルにしている神社がありまして
 
――ちなみに、神様として祭っているかどうかはわかりません。
ですが私は、ヤタガラスさんにお参りしている体です――
 
それが新宿にある熊野神社というところなのですが
ウチの近所ということもあり、私は毎年そこへ二年参りに行きます。
で、まあ、その縁で
ナイヴスのCAの名称としてお借りしたという……それだけの話です。
 
つまらないお話で申し訳ない……でも、そうですね
せっかくなので、熊野神社のヤタガラスさんに
再び皆さんに何らかの形で
素敵なアーメン・ノワールの世界をお見せできる機会が出来るよう
お願いしに行ってきます。

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はい、とっても急なコメントの依頼をして最後の最後でサイトウDを困らせてすみません。
ヤタガラスの名前は、途中グラファイトやら何やら色んな名前に変わって
結局ヤタガラスに戻ったという裏話があったりします。
サイトウD、締めの言葉を有り難うございました!


PS2版から応援してくださっていた方、移植版から好きになってくださった方はもちろん、
これからこの世界へ飛び込む方も、今後ともアーメン・ノワールをよろしくお願いします!

それではまた、どこかでお会いしましょう!

ARMEN!!!


 

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